第3章 2. 青空の涙
腹部の右側に強い痛みを感じた次の瞬間、そっと目を開けると両足が地面から離れていることに気づく。
次の瞬間、シェラの身体は宙にあった。
どんどん地面が遠くなるこの状況を理解出来ずシェラが混乱していると、頭上でまたあの甘い声がした。今回はいつにも増して楽しげだ。
「小エビちゃん捕まえたぁ!」
上を向くと、フロイドがとてもいい笑顔でシェラを見つめていた。
「は……っ!?え、ちょ、フロイド先輩!?何やってるんですか!?」
ようやくシェラは今どんな状況なのかを理解し始めた。
フロイドの左手は箒の柄を握り、右腕はシェラの胴にくるりと回されている。
つまりシェラは今、フロイドに抱えられて宙ぶらりんになっているということだ。
「小エビちゃん、あんまり暴れると危ないよ?」
背後から強い風が吹いたと思ったら、フロイドが猛スピードで飛んで来て地上を走るシェラを攫った。まるで拉致だ。
その様子を見ていた者がいたとしたら、こう表現するだろう。
まるで猛禽類が獲物を捕獲するようだったと。フロイドは鳥ではなく人魚であるが。
「私のこと拉致するつもりですか!降ろしてください!」
手足をばたつかせて今出来る精一杯の抵抗をする。
空を飛んでみたいとは思ったが、こんな宙ぶらりんな状態で飛びたいなんて思っていない。命がいくつあっても足りない。
「えー?小エビちゃんがそう言うなら降ろしてあげようか?」
珍しくフロイドがシェラの抵抗に応じる姿勢を見せる。
何だか嫌な予感はするがシェラは一先ず安心――しかけたところへ、フロイドは黒い笑顔を浮かべた。
「今、この場で」
脅しだ。シェラの顔がすっと青くなる。
こうしている間にも更に地面が遠のいている。地上にいる人が小さくなっていく。
今この状況で手を離されたらどうなるかなど、子どもでも分かる。フロイドに言わせてみれば稚魚でも分かる。
「フロイド先輩……」
「んー?なぁにー?」
フロイドの笑顔が意地悪に見えて仕方がない。
悔しいが今、シェラの生殺与奪を握っているのはフロイドで間違いない。
シェラは出来る限り上体を起こすと、力の限りフロイドの服にしがみついた。
「手、絶対に離さないでください……!」