第13章 9. 夜半の求愛 ※
「そう、ですか……」
クセになりそうとかいう変態発言はどうかと思ったが、その後に伝えられたフロイドの気持ちにシェラは照れてしまい、上手く返せなかった。
「そういう小エビちゃんはどーだったの?」
「え、私、ですか?」
十分に予測できた質問であったが、いざ訊かれるとそれはそれでどう話そうか迷ってしまう。
「まさかオレだけに訊いておいて自分は感想言わないとか、ねぇよな?」
口ごもるシェラの顔を覗き込むようにしてフロイドは迫る。
この脅すような響きのある声にはもう慣れた。
だが、慣れたとはいえ無視するわけにもいかない。
そんなことをしたら、いくら恋人とはいえ容赦なく絞められそうだ。
観念したようにひとつ息をつき、シェラは心の内をフロイドに伝えるべく口を開く。
「私は……不思議な感覚です……。誰かとこういうことするのは初めてなのに、フロイド先輩とするのは、全然そんな感じがしなかったというか……」
フロイド含め過去に異性と関係を持ったことはない。
初めてなのだから、もっと緊張したり、いっぱいいっぱいになると思っていたのだが、そうでもなかったのがシェラの本音。
肌を重ねた時に溢れたのは、探し求めていたものを見つけたような喜び、どことなく懐かしいような安心感、それと、絶対に離ればなれになりたくないという強い強い愛情。
もちろん緊張はしていた。だが、緊張よりも愛しいヴィランを求める気持ちの方が大きかった。
だが、それを上手く伝えられるような語彙力を残念ながらシェラは持ち合わせておらず、結果として〝あなたとのセックスを知っている気がする〟という、なんとも意味のわからない感想になってしまった。
フロイドの胸に顔を埋めながら、反応を待つ。
少しすると、頭の上から甘い声が降ってきた。
「それって、もっと前からオレと交尾するとこ想像してたってこと?」
「なっ……!?違います……っ!」
やはり全く伝わっていなかった。
それどころか意図せず変態的な解釈をされてシェラの顔が一気に茹だる。
急いで顔を上げると、ニマニマと楽しそうに笑っているフロイドと目が合った。
この表情はシェラを揶揄っている時のものだ。間違いなくひとのことを面白がっている。
「ふぅん?どう違うの?」
「それは……っ、……もういいです……」
自分の口下手が恨めしい。