第3章 2. 青空の涙
エースとデュース達は一休みしていると、どこからとも無くやって来たフロイドに声をかけられた。
「ねぇねぇカニちゃんサバちゃんアザラシちゃん、小エビちゃんは?」
「!!リーチ先輩!お疲れ様っす!」
「あ、フロイド先輩お疲れっす。シェラっすか?」
「シェラならグラウンドを走ってるんだゾ!」
「え、なんで?小エビちゃんだけ罰ゲームか何か?」
バルガスの特別メニューを罰ゲームと言ったフロイド。
確かにあのメニューは罰ゲームかもしれない。思わず笑いそうになったエースは、それを堪えてグラウンドの方を指さした。
「ああいや、シェラは魔力が無くて空飛べないんでひとりだけ別メニューっす」
「ふぅん。小エビちゃんかわいそー」
気になるのはシェラの居場所だけだったらしく、興味の無い返事が返ってくる。
「教えてくれてありがと」
知りたいことが知れたフロイドは、もう用は無いと言わんばかりにさっさとその場を後にしようとする。
ふと、エースに悪い考えが浮かんだ。
にやりと口角を上げながら、その背に悪ノリで問いかけた。
「フロイド先輩、シェラのことお気に入りっすね。好きなんすか?」
「エース!?おま……っ!何を……っ!」
エースの軽口に、隣にいたデュースは慌てだす。
グリムはというと、流石にそれはないんだゾとでも言いたげに前脚を組んで話を聞いていた。
「はァ……?」
足を止めて振り返るフロイド。
地を這うような響きの声と氷のような鋭い視線に、最後の一言は余計だったかもしれない、とエースは心の中で思った。
しかしエースが冷や汗をかいたのは一瞬だけで済む。
次の瞬間のフロイドからは、怒った様子が全く感じられなかったのだ。
「小エビちゃんはぁ、度胸があって反応が面白くて飽きないから、ちょー好き」
にぱっと笑ったフロイドは、それだけ言ってさっさと行ってしまった。
許された、とエースがほっと胸を撫で下ろしていると、隣にいたデュースの顔が、ぼっ、と時間差で真っ赤になる。
「すっ……!?」
この手の話に慣れていないから、恐らくフロイドの〝好き〟をそのままの意味で捉えただろう。
きっとフロイドはこのままシェラを探しに行く。
真面目に走ってるところをフロイドに絡まれる姿を想像すると、厄介な人に好かれたなとエースはシェラに少し同情した。