第3章 2. 青空の涙
靴の紐を結び直すと身体を伸ばす。男子とそう大差無い痩せて平らな胸が上下した。
シェラは走り出した。
バルガス特別メニュー1つ目。グラウンド10周。
シェラにとって運動そのものは苦ではないが、運動することによってこれ以上脂肪が落ちてしまわないか心配だった。
元々太りにくい体質で脂肪が少ない。元の世界で鍛えていたからか、そこそこ腹筋もありこれ以上鍛えると割れそうだ。
男子校で生活していく上では女性らしい体型は不要だと思いつつも、やはりシェラも年頃の女子であるから男子とそう対して変わらない体型であることには複雑な心境だった。
◇ ◇ ◇
飛行場では1年生と2年生が2人1組になって箒の2人乗りの練習をしていた。
1年の中には箒の扱いがまだ覚束無い生徒も多く、箒の上で体勢を安定させるコツやスピードコントロールのコツを教えられながら2年の後ろに乗せてもらっていた。
「小魚を後ろに乗せてもつまんなーい!」
後ろに1年を乗せたフロイドが、着地したと同時に文句を言った。
ただ後ろに後輩を乗せているだけでは面白くないと、拗ねた子どもの様に頬を膨らませるフロイド。
徐々に不機嫌ゲージが上昇しつつある様子に、ペアを組むことになった1年は震え上がる。
「ヒッ……、小魚ですみません……!」
「はァ?そんなこと言ってんじゃねぇし」
メイトの見当違いな謝罪に、フロイドの不機嫌ゲージが更に上昇する。
「せっかくオレ今日飛行術の調子良いのに、後ろに乗るのがお前じゃテンション上がんないじゃん。小エビちゃんがいい」
我儘もいいところだが、メイトはフロイドが怖いから何も言い返せない。
1年と2年の組み合わせは順当に出席番号順。
フロイドとしては出席番号が近そうなシェラとペアになれると思っていたし、なれなくても替わってもらうつもりでいた。
しかし実際はそれ以前の問題で、そもそもこの場にシェラはいない。
おまけにペアになったのは、フロイドのことを怖がって縮こまる1年ときた。
小魚一匹おちょくっても何も楽しくない。楽しくないから飽きてきた。
フロイドは他の人よりも視界が開けている。しかし周囲を見渡してもシェラの姿を見つけることが出来ない。
代わりにいつもシェラと一緒にいるエースとデュースとグリムを見つけて大股で歩み寄った。