第3章 2. 青空の涙
移動中に聞いた通り、今日は1年A組と2年D組の合同授業で各クラスの面々が箒を携えて集まっていた。
魔力が必要とはいえ体育系の科目であるのは変わりないから、飛行術の授業は決まって準備運動から始まる。
準備体操が終わって馬跳びをしている時に、ちらりと2年の方へ目を向けると、フロイドの姿が視界に入ってきた。
身体が大きいと意識していなくても目を引く。
ちょうど馬役をフロイドがやっているところで、シェラが目撃したのはペアの生徒が思いっきり引っかかってしまいフロイドが文句を言っているところだった。
馬の脚が長いと跳び越える方も大変そうだ。
準備運動が終わるとアップのグラウンド走に移る。
みな揃って気怠げで、やる気を出してちゃんと走っているのは真面目なデュースくらい。
シェラはこの後のことを考えて体力を温存しておこうと、怒られない程度にそこそこ力を抜いて少し前を走るエースについて行く。
「リンジー!お前はこっちだ!」
アップを済ませ飛行場に集合すると、授業の指示が出される前にシェラが呼ばれた。
シェラはグリムをエースに預けてバルガスの方へ向かう。
猫と同じような身体のつくりをしているグリムではシェラが普段こなしているバルガスの特別メニューは難しい。
だから飛行術の授業では、グリムはエースかデュースの服の中に入ったり一緒に箒に乗ったりして空を飛ぶ感覚を養っていた。
「よし、リンジーは今日も特別メニューだ!!魔法が使えなくても筋肉は嘘をつかないからな!抜かるなよ、オレみたいに立派な筋肉をつけろ!!」
「はい」
シェラはバルガスの話を適度に受け流しながら、踵を返した。
わははと豪快に笑いながら繰り出される、熱い筋肉至上主義にはもう慣れてしまった。
飛行場から少し離れたグラウンドへひとり向かうシェラ。
クラスメイトが空を飛ぶ練習をしている中、シェラはバルガスの特別メニューでグラウンド10周。それが終わったら筋力トレーニング。そこまでメニューをこなしてなお時間が余ったら飛行術の見学。
メニューの内容はかなりハードなものだが、運動が苦手でない、むしろ得意なシェラからすると、魔力が無ければどうにも出来ない科目をバルガスが言うメニューをこなすだけで単位をくれるなんてありがたい話だ。