第13章 9. 夜半の求愛 ※
シェラもフロイドも、もっと深いものを知っている。
お互いの欲をぶつけ合うような、快感物質に脳を支配されるような、そんな激しいキスを。
その1回知ったら、欲が出る。
恋は、ひとを強欲にもさせるものだから。
もっと、もっとだ。
唇だけじゃ足りない。
もっと触れたい。もっと知りたい。
本能が、そう声を上げ始めていた。
シェラの手がフロイドのジャケットの中に伸びたのと、フロイドの手がシェラのカーディガンの中に伸びたのは同時だった。
ふたりの瞳が、男女のそれへと変わる。
超至近距離でねっとりとした視線で見つめ合う。
重なる唇がどちらともなく開き、ごく自然に舌が絡まる。
林檎の味がした。
甘酸っぱい林檎ではない。たっぷりと蜜を含んだ、時に毒にも思えるような甘さを口腔内に感じる。
「ふっ……ぁ……」
フロイドの吐息の熱さに、頭がクラクラする。
シェラもフロイドも夢中で舌を絡めた。
もっと欲しい、もっと、もっとだ。
今はそれしか考えられない。
無意識にシェラは、するりとシャツ越しにフロイドの背中を撫で上げ、サスペンダーに指を引っ掛けた。
「なぁに……?誘ってんの……?」
「ん……」
否定も肯定もせずにシェラは目を逸らす。
交わした唾液が名残惜しげにふたりの唇を細く繋ぐ。
フロイドのグローブのボタンを外す音がやけに官能的に聞こえた。
グローブを外したフロイドの手がシェラの手を絡めとり、そのままシェラはゆっくりとベッドに組み伏せられた。
再び唇が降ってくる。
深く深く味わうように唇を動かし、互いの口腔内を舐め尽くす。
舌を吸い、頬を内側からねぶり、歯列をなぞり、上顎をくすぐる。
ふたりの舌は、それ自体が生きているかのようにうごめき、時に情欲を煽るようなみだらな水音を立てる。
甘い毒に犯されていくようだった。
「小エビちゃん、好き……大好き……」
「私も……好き」
愛してる。
頬を紅潮させながら、フロイドはうわ言のようにシェラへ愛を伝える。
酸欠と身体の奥が疼くような感覚に襲われるシェラもまた、うわ言のように返す。
フロイドはシェラに身体を優しく擦り寄せると、上体を起こしジャケットを脱ぎながら甘い甘い声で誘った。
「ね、このまま交尾しない……?」