第13章 9. 夜半の求愛 ※
溢れた感情が抑えきれないと言わんばかりに、フロイドはぎゅうっとシェラを抱きしめた。
その勢いに、危うく後ろへ倒れ込みそうになった。
服越しにフロイドの肌の温もりを感じる。
首元に頭を預け、肺いっぱいにフロイドの匂いを吸い込む。
好きな人の匂いは、心が落ち着く。
「小エビちゃんもオレのこと好きだなんて、夢みたい……。嬉しいなぁ……」
シェラを抱きしめながら、フロイドは惚けたように言った。
両想いになれた喜びを全力で噛み締めているさまが可愛らしい。
「何言ってるんですか」
夢じゃないですよ、と言いながらシェラは、フロイドの背中をトントンと軽く叩く。
「だって、今日オレ振られることも覚悟して来たんだよ?振られたらタコ焼き作って慰めてねってアズールに言って出てきたもん」
「アズール先輩にタコ焼きをねだるなんて、なかなか酷なことをしますね……」
くすくすと笑いながらシェラは言う。
「ね、小エビちゃん、顔見せて?」
フロイドにそうお願いされ、シェラは肩口から頭を戻してフロイドを見る。
シェラの顔には、笑みの余韻が残っていた。
淡く微笑んでいるような顔のまま、シェラはフロイドの無邪気な笑顔を見つめる。
自然と、笑うことが出来た。シェラはふわりと花の蕾がほころぶように微笑むと、フロイドの頬を指でなぞった。
「オレね、小エビちゃんの笑ってる顔、だぁい好き。かわいいなぁ」
シェラの笑顔を見つめて幸せそうに表情をとろけさせると、フロイドは頬を擦り寄せて、またシェラの顔を見つめる。
フロイドの手が、シェラの頬を優しく撫でた。
ふたりの間から会話が無くなり、ゆっくりと、顔が近づいてくる。
シェラはそっと瞼を伏せる。
その瞬間、唇が重なった。
甘やかにまろやかに溶けるフロイドの唇は、シェラがずっと求めていたものだった。
そしてそれはフロイドも同じで、何度も何度も唇をくっつけては離しを繰り返す。
今まで募らせていた想いの分だけ、何度もキスをした。
ふわふわとした柔らかいキスの合間に、フロイドとシェラは見つめ合う。
熱のこもった視線を交わし合う。
きっと、同じことを思っている。
目は口ほどに物を言う。
こんなのじゃ、足りない。