第13章 9. 夜半の求愛 ※
そう思っていたが、フロイドと想いを通わせて考えが変わった。
みすみす、このまま離ればなれになる運命に従うなんてごめんだと思ってしまった。
シェラがこの世界に召喚され、数多いるひととの出会いの中でフロイドと恋に落ちたのが奇跡だというのなら、もう一度奇跡を起こしたい。
刹那の恋に身を焦がすような悪党にハッピーエンドは許されない、そんな運命とやらを捻じ曲げてやりたい。
フロイドはシェラへ手をさし伸ばした。
シェラはその手を取り、再び唇で深い三日月を描き不敵で強気なヴィランの笑みを浮かべた。
「離れ離れにならないといけない運命があるのなら、そんな運命はくそ喰らえです。悪党にハッピーエンドが許されない運命というなら、そんなものはいっそこの手でぶち壊してやりたい」
シェラが口元から犬歯を覗かせると、神妙な面持ちをしていたフロイドの瞳に徐々に悪どい光が宿っていく。
「あは、おもしれーじゃん!ほーんと最高だよねぇ小エビちゃんって!それに、小エビちゃんだってオレによく言ってんじゃん。〝なにを弱気になってるんです、あなたらしくもない〟ってさぁ」
自分の運命に喧嘩を売ったシェラに同調するように、フロイドも口元を歪め牙見せるヴィランの笑みを浮かべる。
繋いだ手、指を絡める。ふたりは顔を見合わせて笑う。
自ら選んで取った手を、離さずにいられる未来を探していこう。
指を絡めた手を持ち上げると、シェラはフロイドに顔を近づけた。
言葉で好きだと伝える他に、もうひとつ別の方法でシェラは想いを伝えようと思っていた。
「んん?なぁに?小エビちゃん、ちゅーしたいの?」
「ん……」
嬉々としてシェラにキスしようとするフロイド。
んー、と突き出されるフロイドの唇を、シェラは空いた片手で制すると、んあ、と大きく口を開けた。
「これ、あなたたちウツボの人魚からすると求愛の意味があるんですね。……だから、その、これは私からフロイド先輩への求愛、です……」
自分でしておいて段々恥ずかしくなってきてしまい、語尾が尻すぼみになる。
ちら、とフロイドを見る。
完全に意表を突かれて目を丸くしていたフロイドであるが、みるみるその顔が喜びに満ちていった。
「あー……、もう……!ずるい!好きぃ……っ!!」
「わっ……!」