第13章 9. 夜半の求愛 ※
「まったく、あなたはとんだ悪党ですね。まあでも、それは私も同じか。好きになってしまったのなら仕方ないですね。いいでしょう、悪党同士仲良く幸せに、地獄を見ましょう」
フロイドがその気なら、シェラも日和見しているわけにはいかない。
涙で濡れながらも力強い黒真珠の瞳はフロイドから逸らすことなく、悪党らしく三日月型に口角を上げた。
「私も、フロイド先輩のことが好きです。あなたの番に、なりたい――……」
やっと、この想いを伝えることが出来た。
フロイドへの愛しさが、大きな波のようになってシェラの胸にどっと押し寄せる。
シェラから返事を聞かされたフロイドは、まだ両想いになれた実感が湧かないのか面食らったままだった。
そんなフロイドへ、シェラは淡く頬を緩めると、返事を待たせていたこの1ヶ月へ思いを馳せた。
「本当は、あなたに告白された時にはもう、私はあなたのことが好きでした」
あの時は、まだ覚悟が出来ていなかった。
愛しい人に別れの痛みを突きつける覚悟が。
「けれど、どれだけこの世界に……あなたと一緒にいたいと願っても、きっと別れの瞬間は訪れるでしょう。あなたに別れの痛みを突きつけるのが怖くて、あの時私はあなたに自分の気持ちを伝えることが出来ませんでした」
だからシェラは、自分の気持ちを抑え込んだ。
別離の後のフロイドの人生を、いなくなった自分という存在で縛るのが怖くて。
「こんな、臆病な私ですみません。ですが、フロイド先輩への気持ちを抱いたまま、あなたのことを突き放すこと――、それはどうしても出来ませんでした」
ルークに話を聞いてもらった時に、改めて自覚したことがある。
「何度考えても、あなたの笑顔が浮かび、どうしようもなく好きだという気持ちが抑えられないんです」
ルークはシェラの心の内を代弁してくれた。
好きになってはいけないと、何度も何度も頭をよぎったが、その度にフロイドの笑顔が浮かび、心を掴んで離さなかった。
フロイドは言った。諦めたくない。好きになっちゃったから仕方がないと。
シェラは言った。一緒に地獄を見よう。好きになってしまったのだから仕方がないと。
この恋は別離という地獄への片道切符を片手に、ふたりで手を繋いで進んでいるようなものだ。
そう思っていた。