第13章 9. 夜半の求愛 ※
覚悟を決めたはずなのに、すんでのところで刹那の恋に身を焦がす悪党になりきれない。
臆病であるし、我儘だとも思う。
けれどシェラは、フロイドの覚悟を信じられるだけの言葉が欲しかったのだ。
「小エビちゃん、オレのことちゃんと見て」
フロイドに言われてシェラは顔を上げる。
話し始めた時はフロイドの方が泣きそうな顔をしていたのに、今そんな顔をしているのはシェラの方だった。
そんなシェラとは対照的に、フロイドは、ニイッと不敵に口角を上げ、答えを出した。
「待ってるのが地獄だとか、そんなん関係ねーし。そんなんでオレが小エビちゃんのこと諦めるとでも思ってんの?オレはいつか離ればなれになるかもしれないからってビビって好きな雌に好きだって言えないダッセェ雄じゃねーよ。オレは小エビちゃんのこと好きだから自分の気持ちには嘘つきたくねーし、小エビちゃんにはオレのこと好きになってもらいたい。たとえ離れなきゃいけなくなった時に、お互いどれだけつらい思いをすることになっても、好きになったことは絶対に後悔しない」
シェラの問いかけと、フロイドの答え。
ふたりの間に再び静寂が訪れる。
窓から降り注ぐ青白い月明かりは、フロイドと共にシェラを照らす。
「はは……、ほんと……フロイド先輩らしい答えですね」
笑みを含んだ声に震えが混じる。再び俯いたシェラの瞳に涙が滲む。
シェラに面倒な絡みをしてくる奴がいたらオレが絞めるとフロイドが言っていた時と、同じ反応をしてしまった。
最初から最後までいかにもフロイドらしい答えで、シェラは笑ってしまった。
フロイドのそういうところが、大好きだった。
「だって好きになっちゃったんだもん。仕方ないじゃん」
まるで開き直ったかのように、この悪党は言う。
これが、フロイドなのだ。
誰よりも自分の気持ちに素直なフロイドに、シェラは恋をした。
別れの痛みに打ちひしがれるよりも、好きな人に好きだと伝えられない方が嫌だと主張する。
「ねぇ、小エビちゃんの答えも聞かせてよ」
はっきりと、痛いほど理解した。
フロイドは刹那の恋に身を焦がすことも厭わない。
だからシェラも、一切の迷いを振り切ることが出来た。
顔を上げ、まっすぐフロイドを見据え、口を開く。