第13章 9. 夜半の求愛 ※
「……フロイド先輩、1ヶ月もお待たせしてしまってすみません。けど、私なりに真剣に考えました」
返事を待たせていたことをシェラは改めて詫びると、フロイドは首を横に振った。
「ううん。いっぱい悩ませちゃったよね。ちゃんと考えてくれてありがとぉ。……オレ、どんな答えでも聞くから……小エビちゃんの気持ち、聞かせて欲しいな」
フロイドの手がシェラの頬から離れる。
月明かりに照らされたフロイドは、薄く笑っているようにも、今にも泣き出しそうにも見えた。
恋はひとを臆病にする。
それはシェラだけでなく、フロイドもまた同じだった。
シェラは再び小さく息を吸って、吐く。
黒真珠の瞳は、逸らすことなくまっすぐフロイドを見つめた。
「私のお返事をお伝えする前に、もう一度あなたの気持ちを聞かせていただけませんか」
シェラは覚悟を決めた。
刹那の恋に身を焦がす悪党になると。
たとえその先で別れの痛みを味わい、突きつけることになろうと、この恋心を抑えることが出来ない。
けれど、シェラは臆病だった。
フロイドも同じ気持ちでいてくれるか、今一度確かめたかった。
「オレの気持ちは変わんないよ。オレは小エビちゃん――……シェラのことが好き。この先もずっと一緒にいたいし、オレの番になって欲しいなって思ってる」
フロイドはまっすぐシェラの瞳を見つめて、迷いなく言い切った。
そして、んあ、と大きく口を開けてみせる。
大きく口を開けるという行為は、フロイド達ウツボにとって求愛の意味がある。
改めて愛を伝えられると、愛おしさが溢れた。
胸の奥がぎゅっと締めつけられるようだった。
今すぐその胸に抱きつきたい衝動に駆られる。
「そう、ですか」
しかし、まだだ。まだ、そうする時ではない。
シェラは俯き唇を引き結んだのち、何事もなかったかのように顔を上げる。
胸を突き上げる衝動を堪え、シェラは普段と変わらない抑揚のない言い方で、更にフロイドに訊く。
「……あなたにとって番とは、どういった存在ですか」
人魚における番の意味。
それは、生涯を共にするパートナーだと言っていた。
それは、一生を捧げる覚悟の上で求愛すると言っていた。