第13章 9. 夜半の求愛 ※
ふたりの間に束の間の沈黙が訪れる。
フロイドは今夜シェラの元へ訪れた本題を急かすことなく、ゆっくりと出された紅茶を楽しんでいる。
シェラは紅茶を飲みながら、フロイドを見つめていた。
長い脚を組んでカップを傾けるさまは、やはり絵になる。
紅茶には心身をリラックスさせる効果がある。
シェラ自身の緊張を和らげる目的もあって用意したのだが、同時にフロイドの緊張にも効果があったようだ。
ぴりっとした空気が緩み、穏やかな表情をしている。
一旦緊張が息を潜めたふたりは、他愛のない会話をしつつ夜のティータイムを楽しんだ。
やがて、どちらともなく会話が終わり、再び沈黙が訪れた。
シェラは息をゆっくり吸って、吐く。
今宵は、満月だった。
フロイドがシェラに想いを伝えた時と同じ、濃藍の夜空に浮かぶ青白い月。
月明かりが部屋の窓から差し込み、薄暗い部屋にフロイドの姿をくっきりと映し出していた。
外では時折鴉がガアガアと鳴いているが、それでも部屋は、しん、とした静寂に包まれている。
まるで、フロイドとシェラのふたりだけの世界であるように。
いつ言おう。どう切り出そう。
いつ話してくれるのかな。
ふたりは言葉なく、互いの心中を探る。
「フロイド先輩」
先にそれの口火を切ったのは、シェラだった。
ゆっくりと、フロイドは振り返る。
控えめな唇を舌で濡らし、引き結び、そっと開く。
さざ波揺れる水面のようなフロイドの左右で色彩の違う瞳を見つめ、シェラは誘った。
「こちらへ来ませんか」
するとフロイドは、まだ冷め切っていないであろうオーチャードティーをぐいっと飲み干し、シェラの座るベッドへ誘われる。
ギシ……と、ベッドが撓る。
シェラの隣に腰を下ろしたフロイドは、愛おしさと一抹の寂しさを秘めた瞳でシェラを見つめ、グローブを嵌めた手でまるで硝子細工に触れるかのように、優しく、そして慈しむようにシェラの頬をなぞった。
シェラは息を呑む。
思えば、この瞳に見つめられ頬を撫でられる度に、愛おしさが募り、いつしか底知れない恋という名の深い深い海に溺れていった。
シェラは頬を撫でるフロイドの手に、上から自分の手を重ね、そっと指を絡めた。