第3章 2. 青空の涙
「そういえば前の授業で、次回は箒の二人乗りの練習をするから2年生と合同授業って言ってたな」
「ああ、そういえばそうだったな」
エースとデュースは聞いていたらしい。どうして教えてくれなかったのか。いや、この口ぶりだときっと忘れていたのだろう。
「そうだったの?」
そう言ったが、実際のところシェラにはあまり関係がない。
魔力の無いシェラでは箒で空を飛ぶことが出来ないから、飛行術の授業はクラスメイトが空を飛んでいる中、シェラは陸を走っているだけで専ら体力育成の時間だった。
「そぉだよー」
エースとデュースの代わりにフロイドが答えた。
(フロイド先輩とペアになる人、ちょっと気の毒だな)
今は機嫌良さげだが、どんなタイミングで機嫌が悪くなるか分からない。
そして機嫌が悪いフロイドは扱いが非常に面倒臭い、いや、難しい。
ペアになるメイトは相当気を遣うだろう。同情してしまう。胃の調子が心配だ。
「じゃあオレ先行ってんねー。小エビちゃん達も急いだ方がいーよぉ」
ひらひらと手を振るフロイド。確かに少し急いだ方が良さそうだ。
「あ、そうだ」
そのまま先に行くのかと思いきや、フロイドは何かを思い出したように立ち止まる。
そして振り向くと、シェラと目線を合わせるように屈み、手を伸ばした。
「昨日は楽しかったねぇ、小エビちゃん?あはっ、また遊ぼうねぇ」
昨日の油断大敵の教訓があるシェラは、いち早くフロイドの手が耳を狙っていると察知すると、伸びてきた手を掴んでそれを阻止する。そしてポーカーフェイスを崩さずこう言った。
「はい、別の遊びでしたら、また」
牽制されたフロイドは、やるじゃんとでも言うように眉を聳やかした。
そしていつも通りの飄々とした態度で手を振り、今度こそ先に行った。
フロイドが去ると、シェラは大きな溜息をついた。
授業の前なのになんだか疲れてしまった。
「シェラ、オマエ本当に勇気があるんだゾ……」
「流石、猛獣使いだな」
「リーチ先輩相手に物怖じしないなんて、これから姉御って呼んだ方が……」
フロイドを牽制した一部始終を見ていたエース達が口々に言う。
「姉御は嫌かな。ほら、私達も行こ」
デュースの中のシェラ像に姉御が追加されたところでそれをぴしゃりと拒否すると、先を急ぐように促した。