第13章 9. 夜半の求愛 ※
「はい。エペルくんのご実家は林檎を作っているそうで……この林檎ジュース、あのヴィル先輩がマジカメで紹介するくらい美味しいですよ」
シェラが用意した林檎ジュースは、VDCが終わった後、マネージャーを務めてくれたお礼といってエペル・フェルミエから贈られたものだった。
砂糖も添加物も一切入っていないフレッシュなジュースで、その味と品質はヴィルのお墨付きである。
ヴィルがマジカメで紹介したこともあり、飛ぶ鳥を落とす勢いで注文が殺到しているのだとか。
「ベタちゃん先輩が褒めるんなら相当美味しいんだろーね」
「フロイド先輩も入れてみますか?」
シェラが紅茶に林檎ジュースを注ぐと、爽やかながらも濃い甘い香りがふわりと立つ。
それがフロイドの興味をそそったようで、こくりと頷いた。
「入れてみよっかな」
「わかりました」
フロイドのカップに同じようにして林檎ジュースを注ぐと、角砂糖の入ったシュガーポットと一緒にフロイドの前に置いた。
「ありがとぉ」
「いえ、熱いのでお気をつけて」
フロイドを椅子に座らせたまま、自分はベッドにゆっくりと腰を下ろす。
シェラの部屋にある椅子はフロイドが座っている1人掛けソファのみ。ふたりの間に微妙な距離が出来た。
「ん、林檎ジュース入ってる紅茶も美味しいねぇ」
林檎ジュース入りの紅茶をひとくち飲んだフロイドは、ふわりと表情を柔らかくする。
「そーいや、ジェイドが前紅茶に林檎のブランデー入れて飲んでたなぁ」
「カルヴァドス、でしたっけ?」
「そ。入れすぎるとアズールに本気で怒られるらしいよぉ」
「お酒ですからね」
ブランデーを紅茶で割るカクテルもあるくらいだから、このふたつはとても相性が良い。
紅茶について造詣深いジェイドが好むのも頷けるが、入れすぎるとアルコールが飛ばずに飲酒扱いになってしまう。
紅茶にブランデーを入れる場合は、ティースプーン1杯くらいが目安である。
そうすると、紅茶の熱でブランデーのアルコールが飛び、香りだけが残る。
シェラが作ったのは、オーチャードティーという。
紅茶に林檎ジュースを入れるだけで手軽にフルーツティーが楽しめるから、シェラのお気に入りだった。
気分でシナモンスティックを入れても、スパイシーな香りがアクセントになり甘さが際立って美味しい。