第13章 9. 夜半の求愛 ※
僅かに狼狽するフロイド。
フロイドが別の意味を勘ぐって躊躇うのも理解出来るが、シェラとしてはやましい意味で誘っているわけではない。
「はい。フロイド先輩が嫌でなければ」
「……部屋行こ」
フロイドを先導してシェラは階段を上がる。
ゆっくりと階段を踏みしめる度に鳴り響く、床板の軋む音。
苦くて甘い緊張感と、少しだけ張り詰めた空気。
一段一段上がる度に、シェラの緊張も増していった。
それはきっとフロイドも同じだろう。
いつもよりも口数が少なく、そわそわしている。
「どうぞ」
「お邪魔しまぁす」
シェラは自室の扉を開け、フロイドを通した。
まるでシェラの性格を表したような、余計なものが置かれていない飾りげのない部屋。
「小エビちゃんってこんな広い部屋使ってたの?」
シェラの部屋には初めて入るフロイドが、ぐるりと見渡して感想を述べた。
「ひとり部屋ですからね。広さは寮長の部屋と同じくらいはあるかと」
現状ひとり部屋を使っているのは各寮の寮長のみである。
フロイドはジェイドと同室だし、エース達に至っては4人部屋だと言っていた。
それと比べれば確かに広い。広い上に必要最低限の私物しか置いておらず、いささか殺風景にも見える。
「どうぞお座りください」
シェラはティーセットをテーブルの上に置くと、フロイドに座るよう促す。
フロイドはハットをとって、1人掛けのソファに座った。
いつもシェラが座っている時は丁度いい大きさであるが、フロイドが座るとなんだかソファが小ぢんまりとして見えた。
シェラがふたつのティーカップに熱い紅茶を注ぐと、白い湯気がゆっくりと立ちのぼった。
フロイドはシェラがお茶を淹れる様子を黙ってじっと見ていた。
視線に気づいたシェラは、困ったように眉を下げて薄く笑う。
「ジェイド先輩ほど美味しく淹れるのは難しいかもしれませんが……」
「そんなんいーの」
シェラが声をかけると、フロイドはにこにこと笑って楽しみだと言った。
「?それ、なに?」
フロイドはシェラの手にある、紅茶が入っているものよりも小さなポットを見て言った。
「温めた林檎ジュースです。VDCメンバーのエペルくんからいただきました」
「グッピーちゃんから?」