第13章 9. 夜半の求愛 ※
そういえば夜にフロイドがここにくるのは、オンボロ寮を差し押さえられた時以来だ。
あの時はフロイドのことを、悪魔のような取り立て屋にしか思えなかったのに、今こうして想い人として招いていることにシェラは感慨深くなった。
あの時の自分に、2ヶ月後にはフロイドのことを好きになっていると言っても絶対にありえないと言っていただろう。
シェラはフロイドを談話室に通した。
「静かだねぇ」
しん、と静まり返った空間にフロイドの声が響く。
廃墟マニアのツノのある彼が好んでやってくるような場所であるから、夜になるとまるで世界から切り離されたような静寂が訪れる。
「はい。……今は私しかいませんから」
シェラは寂しげに言う。
VDCの後、黒い石を食べ様子が豹変したグリム。
幸いグリムは見つかったが、学園長に捕縛されてしまった。
先に見つけてあげられなかったことがとても悔やまれる。
あの時グリムに負わされた怪我はすぐに治ったが、未だにグリムは戻ってきていない。
「……、アザラシちゃん、早く戻ってくるといいね」
フロイドは気落ちしたシェラを励ますように頭をぽんぽんと撫でた。
「そうですね。いつもはもう少し静かにして欲しいと思っていましたが、いざいなくなると寂しいですね」
そう言うと、シェラはフロイドから離れる。
「少しここでお待ちいただけますか。お茶を用意してきます」
「うん。ありがとぉ」
フロイドが長い脚を伸ばしてソファに腰を下ろしたのを見ると、シェラはキッチンに向かう。
今夜は特に冷える。
フロイドは人魚だから多少の寒さは平気だと言うが、シェラはもてなしとして温かい紅茶を用意していた。
時間帯を考えてカフェインレスのものを選んだ。
あまりフロイドを待たせないように手早くティーセットをトレーに載せると、談話室に戻る。
「お待たせいたしました」
シェラはフロイドに声をかけると、暖炉の火を消した。
燃えた薪から名残惜しげに白い煙が舞う。
「ん?火ぃ消しちゃったら小エビちゃん寒いでしょ」
シェラが火を消す様子を見て不思議がるフロイド。
もう一度火をつけようとしているのか、手がマジカルペンに伸びている。
「いえ、ここは広くて逆に落ち着かないので、私の部屋でお話しませんか」
「え……、っと、……いいの?」