第13章 9. 夜半の求愛 ※
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ゆらゆらと踊るように燃える暖炉の火を見つめながら、シェラは談話室でひとりフロイドが来るのを待っていた。
時刻は9時をまわる頃。少し前にスマホにフロイドから『今から行くね』という連絡が入った。
鏡舎を経由してオンボロ寮へ来るのには、フロイドの足なら10分もかからないだろう。
シェラは天井を見上げ、目を閉じる。
緊張していた。
元の世界で暮らしていたシェラに、誰かと恋仲になったような記憶はない。
告白されたのも初めてであるし、告白をするのも初めてだ。
フロイドの気持ちに返事をすると決めたのに、いかんせん口下手なシェラは直前であるのに自分の気持ちを上手く言葉で伝えられる自信が無かった。
ああ言おうか、こう言おうか、という考えが頭の中で浮かんでは消えを繰り返している。
連絡が来てからさほど時間が経っていないにも関わらず、シェラにはやたら長く感じた。
と、そこへドンドンと扉を叩く音がシェラの耳に届いた。
シェラはゆっくりと瞼を上げた。
(来た……)
シェラは丈の長いシンプルなネグリジェの上に、カリムが制服の上に着ているような厚手のカーディガンを羽織ると、玄関へ向かう。
扉のすりガラスに背の高い影が映っている。
シェラはそっと扉を開けると、端正な顔に期待と不安が入り交じった神妙な表情を浮かべたフロイドが立っていた。
フロイドはシェラの顔を見ると、少し眉を下げて笑った。
「小エビちゃん、お待たせぇ」
「お疲れ様です。お待ちしていました。……お入りください」
緊張ゆえぎこちない表情を浮かべながら、シェラはフロイドを招き入れる。
「あれ、小エビちゃん今日はワンピースみたいなの着てる。可愛くていーじゃん」
シェラに促されて寮に入ったフロイドは、シェラの着ている服について触れた。
フロイドが可愛いと言ったシェラが着ているネグリジェは、裾は膝下よりも長くレース刺繍やフリルなど何もついていない飾りげのないシンプルなデザインである。
「ありがとうございます。部屋着……というより寝間着ですね。先にお風呂に入ったので」
「へえ、じゃあ後は寝るだけなんだねぇ」
あっけらかんと言いながら、フロイドはきょろきょろとオンボロ寮内を見渡している。