第12章 8. 愛の狩人
普段のシェラからはまったく予想が出来ない行動に、サスペンダーを持ったフロイドの手が行き場をなくして泳いでいる。
シェラは目を伏せた。
フロイドの胸の鼓動が聞こえる。
どきどきと、きっと驚いているのだろう。
いつもスキンシップが激しいのはフロイドの方なのに、いざシェラに同じことをされると動揺してしまうさまが、愛おしかった。
シェラは静かに本題を切り出す。
「……フロイド先輩は、足を怪我した私を寮まで連れて帰ってくれた日のことを覚えていますか?」
「……忘れるわけないじゃん」
それは、フロイドがシェラに恋心を告白し、求愛をした日のこと。
フロイドが忘れるわけないと分かってはいたが、今一度覚悟を強固にするために確認しておきたかった。
シェラは小さく深呼吸をして続ける。
「1ヶ月もお待たせしてしまって、すみません。あの時あなたが伝えてくれた気持ちのお返事を、させていただけませんか」
フロイドがひゅっと息を呑んだのが分かった。
返事を催促することなく、ずっと、何も言わずに待っていてくれた。
きっとフロイドにとっては長い長い1ヶ月だったことだろう。
シェラもフロイドのことが好きなのに、それをすぐに伝えずに待たせてしまって申し訳なかった。
しかし、シェラなりにフロイドのことを想い、悩んだ1ヶ月であったから、どうか許してほしい。
「……今夜、ラウンジの営業後、寮であなたのことをお待ちしています。……来て、いただけますか?」
静かに、シェラはフロイドに懇願する。
フロイドへの溢れそうな気持ちを必死に抑えて言っているのに、相も変わらずシェラは淡々としていた。
「……行く」
短い返事を聞いたシェラはフロイドから離れる。
「ありがとうございます。……用事はそれだけです。では、私はこれで」
そう言うと、シェラはフロイドの反応を見ることなく踵を返して退室しようと扉へ向かう。
「待って」
帰ろうとするシェラを、フロイドは引き止めた。
マリンシトラスがふわりと香った。
フロイドはシェラを後ろからそっと抱きしめると、縋るように揺れた声でシェラに訊いた。
「ね、オレ、どんな気持ちで今夜小エビちゃんのとこ行けばいい……?……ちょっとは期待していい?」