第12章 8. 愛の狩人
シェラから手を離したフロイドは、シャツのボタンをぷちぷちと留めながらあっけらかんと言う。
海の中では服を着る習慣が無いからか、肌を見られたところでなんとも思っていなさそうだ。
「どうしたって……、びっくりするので着替え中ならそう言ってください……。というか早く下を履いてください」
「はいはーい」
辟易とするシェラにフロイドは軽い調子で返事をすると、スラックスに脚を通し始める。
フロイドに出ていくなと言われたものの着替えをまじまじと見るわけにもいかないので、シェラは部屋の隅へ移動する。
背後から衣擦れ音が聞こえる。
相変わらずのフロイドの調子に、シェラとしては一大決心をして来たというのに、出鼻を挫かれた気分だ。
フロイドに聞こえない程度にシェラはこっそり溜息をつく。
ふと、フロイドのとっ散らかったベッドの方へ視線をずらすと、大きなエビの抱き枕と目が合った。
エビとはいってもデフォルメ化されたエビで、抱き枕として使いやすいように脚のないデザインになっている。
そしてよく見ると、ささやかながらに睫毛がついていて、なんとも言えない可愛らしさがある。
(大エビちゃん、かな)
なんて。
毎晩このエビの抱き枕をぎゅっとして寝ているのかな、なんて考えると自然とシェラの頬が緩んだ。
ちなみに、このエビ抱き枕はシェラが想像したようにぎゅっと抱きしめられているが、寝相までもが自由なフロイドに結構な頻度で蹴飛ばされている。
「ところでさぁ、今日はどうしたの?小エビちゃん今日シフト入ってないじゃん。もしかしてオレに会いたくなっちゃったの?」
「はい」
シェラの答えを聞かずに嬉しいなー、なんて言っておちゃらけていたフロイドへ、シェラは短く返す。
「え?」
着替えるフロイドの手が止まる。
フロイドがふざけてこういうことを訊くと、決まってシェラは否定したり曖昧に濁す。
きっとフロイドは、今日もそれは変わらないと思っていたのだろう。
シェラはゆっくりと振り返る。
きちんとスラックスを履いていることに一先ずは安心した。
サスペンダーを持ったまま頬を染めて固まっているフロイドを、シェラは見上げる。
「フロイド先輩……」
シェラはフロイドへ歩み寄り、その胸に、こつん、と頭を預けた。