第12章 8. 愛の狩人
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総合文化祭の余韻が冷めやらぬまま、数日が過ぎた。
VDCが終わるとNRCトライブのメンバーがそれぞれの寮へ帰っていき、オンボロ寮はVDC前以上の静けさに包まれた。
VDC後にトラブルが起きたが、それは今のシェラにはどうしようもない。
シェラはオクタヴィネル寮に来ていた。
やっと決心がついた。
フロイドに自分の気持ちを伝える時がやってきた。
自分の思っていることを伝えて、フロイドの気持ちをもう一度聞いて、ふたりで幸せだと思える時間を過ごしたい。時間は無限ではないのだから。
思えばフロイドはシェラのことをまっすぐ愛そうとしてくれているのに、その気持ちに白黒つけずに宙ぶらりんにしておくのは1番不誠実で酷なことだった。
あの夜ルークに言われた通り、フロイドへの恋心を抱いたまま『あなたの想いを受け取ることは出来ません』とは、どうしても言えない。
フロイドに恋をしたことを後悔していないのなら、この想いは伝えるべきだと、ようやく気づいた。
フロイドに会うべく、シェラは緊張した面持ちでモストロ・ラウンジへ向かう。
扉を開けると、来店を給仕に知らせるベルが響いた。
開店前のモストロ・ラウンジは寮生もまばらで、今のところフロイドの姿は確認出来ない。
フロイドの代わりにジェイドがシェラの来店に気づきこちらへ歩み寄ってきた。
「おや、シェラさん、こんにちは。まだ開店前ですが……今日はお客様として来てくださったのですか?」
ジェイドは上品な所作で頭を下げると、上からシェラを見つめて用件を訊く。
「ジェイド先輩お疲れ様です。いえ、フロイド先輩に少し用があって来ました。フロイド先輩はどちらに?」
フロイドの名を出すと、ジェイドの瞳が水面のように揺れた。
ジェイドは目を伏せ、また開くと、普段と変わらぬ柔和な笑みでフロイドの居場所を教えてくれた。
「フロイドなら部屋で支度をしていると思います」
「ありがとうございます」
シェラは頭を下げると、ジェイドに一瞥をしてフロイドのいる部屋へ向かう。
シェラはオクタヴィネル寮生ではないが、アルバイトで頻繁に出入りしているから内部の構造をよく理解していた。
迷いのない足取りでシェラは奥へと進んでいく。
あまりのんびりしていると入れ違いになってしまう。