第12章 8. 愛の狩人
「後悔のない、選択……?」
シェラの唇が揺れる。
ルークはシェラの瞳をまっすぐ見据えたまま、ゆっくりと語り出した。
「そうさ。あくまでこれは私個人の意見ではあるけれど、今日この世界に存在出来たからといって、明日もそうだとは限らない――。いつか愛を伝えようと思っていても、その前に別れの瞬間が訪れるかもしれない。だからこそ、愛の言葉は躊躇わずに伝えるべきさ」
ルークの意見に、シェラは言葉を詰まらせる。
今日この世界に存在出来たからといって、明日もそうだとは限らない。
その言葉がシェラの胸に重く響く。
「この世界は幾多の恋や愛に満ちている。別世界の数多いる人間のうちキミがこの世界に召喚され、恋に落ち、そして恋した相手も自分のことを愛してくれているなんて、奇跡だと思わないかい?キミは愛したムシューの幸せを願っている。それはムシューも同じ気持ちだろう。後悔のない選択というのは、キミが幸せになれる選択ということだよ」
後悔のない選択というのは、シェラが幸せになれる選択。
シェラの黒真珠の瞳にひとすじの光が宿ったのを見ると、ルークはおもむろにおどけたように肩を竦めた。
「おっと、話しすぎてしまったね。明日の朝、目の下にクマをつくってしまっては毒の君(ロア・ドゥ・ポアゾン)に叱られてしまう!ボンヌニュイ。シェラくん。明日、キミに清らかな笑顔が咲いていることを願うよ」
そう言うと、ルークは足音を立てずに颯爽と階段の影に消えていった。
(私が、幸せになれる……選択……)
シェラは胸に手を当て、瞼を伏せる。
きっと、初めて異性を好きになった。
そして、彼もまたシェラを想ってくれている。
何度考えてもフロイドの笑顔が浮かぶ。
愛しさと、離れたくない気持ちが胸が溢れ、むせ返りそうになる。
シェラが幸せになれる選択。
もう到底後戻り出来ないところまで恋に落ちた。
別離が逃れようのない運命だというのならば、元の世界に還っても決して忘れないように、魂にフロイドの存在を刻み込みたい。
シェラは瞼を持ち上げる。
心は決まった。
別離を覚悟の上で求愛をしてくれたフロイドの気持ちを信じよう。
フロイドに恋をしたことを後悔していないから。
まっすぐ、フロイドのことを愛したいから。