第12章 8. 愛の狩人
たっぷりと感情をこめて、ルークは言う。
シェラは顔を上げてルークを見た。
愛の狩人と名乗っていたが、兼吟遊詩人ではないかとシェラは至極真面目に思った。
自分が話した内容に対してルークが反応しているだけであるのに、それがいちいち詩を詠っているようで、シェラは何だか舞台鑑賞でもしている気分になった。
芝居がかった話し方であるのにこれが素であるから、やはりルークは食えない。
だが、その食えなささが逆に中立の立場で客観的な意見をくれそうだとも思う。
そのおかげで、もつれた糸のようにこんがらがった思考が幾分か解け、つらく揺れる黒真珠の瞳が凪ぎ、落ち着きを取り戻した。
「それで、シェラくんはどうしたいんだい?」
まっすぐシェラを見据えてルークは訊く。
「……情けないことに、わからないんです」
どうしたい、と訊かれてシェラは口を噤む。
本音を言えば、フロイドに『私も好きです』と言いたい。
想いを伝えて、未来を共に生きたい。
だがそれは、共に未来を過ごすことが出来るという確証が無いと伝えることが出来ない。
だから今、シェラは悩み塞いでいる。
「では、訊き方を変えようか。キミは想い人のムシューへの恋心を抱きながら『私はいずれ元の世界に帰るから、あなたの想いは受け取れません。ごめんなさい』と面と向かってはっきり言うことが出来るかい?」
シェラの本心に迫るようなルークの問いかけに、シェラは言葉に詰まる。
「それは……」
出来なかった。
狩人の瞳をしたルークは、しかとシェラを見据えて逃さない。
その場しのぎの取り繕いの一切を見抜いてしまいそうな瞳を前に、シェラは嘘を言うことが出来なかった。
言い淀むシェラに、フロイドを突き放すことが出来なかったことをルークは察すると、穏やかに微笑んだ。
猛禽類のような鋭い瞳をしているのに、優しさと包容力を持ち合わせている。
「きっとキミのことだから、好きになってはいけないと何度も自分に言い聞かせただろう。それでも、キミは彼への恋心を抑えることが出来なかった」
ルークの言う通り、シェラは何度も好きになってはいけないと思い留まろうとした。
何度も何度も悪ふざけの延長のキスを無かったことにしようとした。
「……そうです」