• テキストサイズ

泡沫は海に還す【twst】

第12章 8. 愛の狩人


フロイドに同じことを言ったのはつい2ヶ月ほど前であるのに、今では遠い昔のように思える。
それが最初に頭をよぎったのは、悪ふざけの延長で唇を重ねた時。
好きになってはいけない。このままでは、身を滅ぼすことになる。

「それなのに、私は……この世界の人に、恋をしてしまいました」

好きになってはいけない。
好きになってしまったら、つらい思いをするのは自分だ。

しかし頭では理解していても、心はそんなに単純ではなかった。

シェラは目を伏せる。瞼の裏にフロイドの姿が浮かんだ。

気づいたときにはもう遅い。
シェラは、とうに心を奪われてしまっていた。
元の世界に帰りたくない、どうしても離れたくない。そう思うほど。

「そして、彼も、私のことが好きだと……番になって欲しいと、彼に求愛をされました」

心を奪われたのはシェラだけではなかった。
フロイドもまた、シェラに心を奪われた。

「求愛?」
「はい。……求愛という行為は彼の種族にとって、相手に一生を捧げる覚悟の上……だそうです」

これから先、死がふたりを別つまでシェラを守り愛し抜き、自分の一生を捧げるという覚悟の上に成り立つ行為。

「ですが、私はいずれ彼の前からいなくなる人間です。その別れの瞬間を想像するだけで、私は胸が引き裂かれそうです」

ジェイドに求愛がなんであるかを聞いたときに、フロイドへの愛しさと切なさが溢れ、そして自らの運命を呪った。

「それに、求愛を受け入れたら、その先の彼の人生を、いなくなった私という存在で縛りつけてしまう気がして……。彼のことが好きだから……、求愛を受け入れた後に別れの痛みを突きつける覚悟が……私にはどうしても出来ません……。彼には、不幸になって欲しくない」

つらく顔を歪ませたシェラから発せられた声は震えていた。
何度考えても、この恋の行き着く先は地獄だ。
刹那の恋に身を焦がすような悪党に、ハッピーエンドは許されない。

シェラは俯く。目頭が熱く、息が苦しい。


静かにシェラの話に耳を傾けていたルークが口を開いた。

「ああ……、マドモアゼルとムシューが互いを想い合う、深海よりも深い愛……トレビアン!実に美しく、実に切ない。愛し合うふたりを襲う無慈悲な別れという運命……打ち破ってほしいと願わずにはいられない……!」
/ 336ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp