第12章 8. 愛の狩人
そして、この全開のルークワールドが日常であるポムフィオーレ生に対してシェラは尊敬の念すら抱く。
上手く反応できずに眉を寄せるシェラへ、ルークは優しく語りかけるように問いかけた。
「キミの心をそんなにも悩ませる罪深いムシューは誰だい?」
瞠目したシェラの喉が小さく、ひゅっ、と鳴る。
矢尻が一閃的を射抜いたように、ルークはシェラが悩んでいるということだけでなく、その内容までぴたりと言い当てた。
完全に心の内を見透かされたシェラは、動揺を隠すようにティーカップへ手を伸ばす。
「鋭いですね。どうしてわかったんです。ルーク先輩は占い師かなにかですか」
経験則なのか、シェラがわかりやすかったのか、もしくはその両方か。
いずれにしても、何を考えているかわからないと言われることの方が多いシェラからしたら、青天の霹靂に近いものがあった。
「ノン。私は占い師ではなく愛の狩人(ル・シャソゥ・ドゥアムール)さ。マドモアゼル、私で良ければ話してごらん。ひとりで思い悩むよりも、心が軽くなるかもしれないよ」
ルークの申し出に、シェラは表情を変えずに頭の中で考える。
ルークはどこかの某慈悲の概念が行方不明な彼らと違って、人の悩みを弱味と捉えず、胸の中に秘めておいてくれそうだ。
少なくとも誰かにベラベラ言いふらすなんて下品な真似はしないと思っている。
恋愛事情についてエースやデュースには話せない。
無論、シェラはふたりのことを信頼しているし親友だと思っている。ただ、彼らはシェラと距離が近すぎる。
ひとりで考え込んでいても、思考が堂々巡りをするだけだった。
その結果、シェラは思い悩み眠れない夜を過ごしている。
ここはルークの言う通り、話してしまった方が自分の考えがまとまるかもしれない。
シェラは重く閉ざしていた口を、ゆっくりと開く。
「私は……」
カモミールティーの表面に、シェラの翳りを帯びた表情が映る。
ルークは何も言わずに穏やかな微笑みをたたえて、シェラの次の言葉を待つ。
「私は……ルーク先輩もご存知の通り、別の世界から召喚された異世界人です。今はこうしてこの世界に存在していますが、いつか、私の意思に関係なく、この世界からいなくなる時がくるでしょう」