第12章 8. 愛の狩人
シェラは自分が辿ることになるであろう運命を呪った。
フロイドの笑顔を思い出す度に、胸が苦しくなる。
離れたくない気持ちでいっぱいになる。
気づいたら、恋に落ちていた。
心をこの世界に置いては帰れないと思っていたのに。
ジェイドが言ったように、フロイドもシェラに一生を捧げる覚悟の上で好きだと求愛をしてきたのなら、明確な返事をせずにいつまでも待たせているのは残酷な他ない。
しかし、相思相愛の関係になることはフロイドの幸せにつながるのだろうか。
待っている結末は別れであるのに。
別離の瞬間を迎えたその後の人生を、自分といういなくなった存在で縛ってしまうのではないか。
刹那の恋に溺れるというのは、別れの痛みを突きつけるというのは、そういうことだ。
フロイドを不幸にさせたくない。
(どうしたらいいか、わからないな)
溜息をつきながら項垂れると、背後の階段の奥から、ギシッ、と床板の軋む音が聞こえてきた。
シェラがその音に気づいて顔を上げたのと同時に、暗闇から人影が現れシェラに声をかけた。
「ボンソワール、シェラくん」
「……っ!?」
驚いたシェラは大きく肩を上下させる。
まるで詩を詠うような声と、こんな挨拶をする人なんてシェラはひとりしか知らない。
振り返ると、そこにいたのは予想通りの人物だった。
「ルーク先輩……」
「すまない、驚かせてしまったようだね」
切り揃えられた美しい金髪を揺らしながら、彼はいきなり声をかけたことを詫びる。
現れたのは、ルーク・ハントだった。
時計の針が進む音しか聞こえないような静まり返った空間だったのに、現れる直前まで気配に全く気づかなかった。
リーチ兄弟といい、この学園は気配を消して近づくのが上手い人が多すぎる。
ひとまずは、現れたのがヴィルでなくてよかったとシェラは安堵する。
もしヴィルだったら、こんな時間まで起きていることについて厳しく叱責されていただろうから。
「春の陽に揺れる可憐な花のような香りに誘われて来てみたら、まさかキミがいるとは驚いたよ。こんな夜中にどうしたんだい?早く寝ないとヴィルに見つかった時に叱られてしまうよ」
警戒を解いたシェラに、ルークは穏やかな笑顔を見せるとこちらへやって来た。
「承知の上です。……でも、その、眠れなくて」