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泡沫は海に還す【twst】

第12章 8. 愛の狩人


「アンタ、まさか喧嘩のお礼参りなんて考えてないでしょうね?他寮の問題には首を突っ込まないこと。いいわね?」
ヴィルの勘の鋭さにシェラは隣でこっそり舌を巻く。
考えていたことをぴたりと当てられたデュースは、ギクッというオノマトペがぴったりな顔をしている。
エースは笑いを堪えるのに必死そうだ。

「……はいッス!」

ことの経緯を全て話すと、デュースにとっては全くの他寮の話というわけではないのだが、ここは余計なことは言わない方がいいと判断したシェラは、黙ってヴィルの忠告に頷いた。

◇ ◇ ◇

その日の夜は、なかなか寝つけなかった。
眠ろうと思って目を閉じても夢の世界へは行けず、落ち着きなく右に左に寝返りを打つ。
壁掛け時計の秒針の音が、眠れぬシェラを責め立てるように頭の中に響く。
身体は疲れているはずなのに、今夜はどうしても寝つきが悪い。

重い秒針の音に痺れを切らしたシェラは身を起こした。
時刻は日付が変わる手前。ベッドに入ってから既に2時間が過ぎていた。

シェラはすぴすぴと気持ちよさそうに眠るグリムを部屋に残して、談話室へ降りた。


(眠れないな……)

林檎をより柔らかくしたような優しく甘い香りが、談話室を包み込む。
燭台の灯りのみの薄暗い談話室。
蝋燭の火がシェラの物憂げな顔に影を落とす。

寝つきが悪いシェラは、安眠効果があるというカモミールティーを淹れた。
モストロ・ラウンジでアルバイトを始めてすぐの頃、慣れないバイトでいつも以上に疲れるだろうから、といったジェイドから贈られたものだった。

シェラはカモミールティーをひとくち飲み、天井を見上げて目を閉じた。

『貴女はいつか元の世界に帰ることになるでしょう。それを知った上で求愛をした覚悟を、どうか無下にしないでくださいね』

ジェイドの言葉が頭の中で反芻する。

(フロイド先輩は、全部覚悟の上なのかな……)

フロイドが想いを伝えてくれたときのことを思い出す。
シェラは瞼を持ち上げる。
フロイドは『もし小エビちゃんがこの世界にずーっといてくれるんだったら、それが1番嬉しいよぉ』と言っていた。
今思えば、それは〝if〟の話で、フロイドはシェラがいなくなることを前提に話していた。

(苦しいな)
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