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泡沫は海に還す【twst】

第11章 7-3. 咬魚の誘惑 後編


ジェイドなら答えてくれると、シェラは信頼していた。

「なぜ、そんなことを僕に聞くんです」

その期待と信頼とは裏腹に、ジェイドの口から出てきたのは冷淡な返事だった。
シェラは隣のジェイドを見上げ、その瞳を見つめる。
揺れるジェイドの瞳は寂しそうにも見えるし、悲しそうにも見えるし、面白がっているようにも見える。

ジェイドの本心はシェラには分からない。
ただ、ひとつ確かなのはフロイドに訊けないからといってジェイドに訊いたのはシェラの甘えだったということ。

「失礼いたしました。今の質問は忘れてください」
自分の甘えを反省し、気分を害したことをジェイドに詫びる。

「ふふっ。そんなに落ち込まないでください。こう言ったら貴女はどんな反応をするのか気になってしまって」
質問を撤回したシェラを揶揄うように、ジェイドは口角を上げて厭な笑みを浮かべた。

「相変わらず意地悪な性格をしてますね」
揶揄われただけだと気づいたシェラは、憎々しげに表情を歪める。

「ああ、そんなに怒らないで」
厭らしいにやけ顔から一転、優しく穏やかにシェラを宥めるジェイド。
そしてシェラに切なくも愛おしげな視線をやると、静かにシェラの質問に答えてくれた。

「……番とは、好きな雌のことで、僕達と交尾をした末に稚魚を産んでくれる雌のことで、この先一生一緒にいたいと思う雌のことです。陸の言葉でいうと、交際相手というよりもパートナーの方が近いでしょうね」

ジェイドの言う、〝パートナー〟という言葉がシェラにはしっくりきた。

「そう、ですか……」
「僕達は両親に『番候補は見つかったか』と、早く番になって欲しい雌を見つけるよう催促されています。男子校であるナイトレイブンカレッジでどう探せと言うのでしょうね」
困ったようにジェイドは笑う。

ジェイドの話に、シェラの表情が曇った。

(そっか、だからフロイド先輩は焦って私に……)

ナイトレイブンカレッジにいる女子はシェラひとりだ。
両親に番を探せとせっつかれているのだったら、1番身近な女子であるシェラが候補になるのも頷ける。
フロイドの想いは純粋な好きという気持ちだけでなく、ある程度の妥協もあるのかもしれない。

そう考えると、途端に悲しくなった。
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