第11章 7-3. 咬魚の誘惑 後編
フロイドがあんなにも怒っているのはシェラのこと。
万が一停学にでもなったら、その責任の半分くらいは自分にあると、シェラは思っていた。
「フロイドが心配ですか?」
白い息を吐きながらジェイドは訊いた。
「心配……していることになるんでしょうね」
シェラは目を伏せる。
ジェイドに心配していると思われるのはなんだか気恥しいが、フロイドのことを考えるとやはりあまり大事にしてほしくないのが本音。
『小エビちゃん!』とシェラを呼び、可愛らしい笑顔を見せながら駆け寄ってくるフロイドの姿が浮かんだ。
「そうですか。……貴女は、本当にフロイドのことが好きですね」
シェラが見ていないところで、そう言ったジェイドの表情が一瞬だけ曇る。
シェラは顔を上げた。
今、ジェイドはその〝好き〟をどういう意味で言ったのだろう。
「……そう見えますか」
シェラは感情のこもっていない声で返す。
まだフロイドに自分の気持ちを伝えていないのに、1番近しいジェイドに打ち明けるのは気が引けた。
そもそもジェイドはフロイドの気持ちを知っているのだろうか。
ふたりの関係性とフロイドの性格を考えるとジェイドには話していそうだし、それ以上に普段のフロイドのシェラへの接し方を見ていると、どんなに鈍くても多少は勘づきそうだとは思うが、シェラは確信が持てない。
ジェイドを経由してフロイドに好きだという気持ちが伝わるのは避けたかった。
植物園が見えてきた。
ひとつ、シェラはジェイドに訊きたいことがあった。
「ジェイド先輩」
「はい」
オンボロ寮まであと少し。
訊くなら今しかないと、シェラは重い口を開いた。
「人魚のいう〝番〟とは、どういう存在ですか?」
「!」
あからさまに動揺した表情。オリーブとゴールドの瞳が見開かれる。
ジェイドがこのような反応をするのは珍しい。
〝番〟
フロイドがシェラに想いを伝えたときに、『番になって欲しい』と言っていた。
シェラにとって番という表現は馴染みがなく、どういった意味で言ったのかは未だに聞けずじまいだった。
文脈を読むとと交際相手という意味のような気がするが、どうも引っかかるところがある。
だが今更フロイドには訊けない。だからシェラはジェイドに訊いた。