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泡沫は海に還す【twst】

第11章 7-3. 咬魚の誘惑 後編


「だって、小エビちゃんだったらあんな雑魚が殴りかかってきたところで避けられるでしょ」
ジェイドの代わりに、ソファでくつろぐフロイドが答えた。
アズールもジェイドも無言で頷いている。

「避けられたところで、小エビちゃんに手を出そうとしたことには変わりねーけど」
フロイドはまだ矛を収めていないらしい。声が未だに不機嫌そのものだ。

きちんと説明をしないと誰も納得しなさそうな雰囲気だ。
シェラはこっそりと溜息をついて、重い口を開いた。

「……ジェイド先輩とフロイド先輩が仰る通り、私はあの時わざと殴られました」
この3人には誤魔化しは通用しない。だからシェラは正直に言った。

「あなたはマゾですか」
「マゾじゃありません」
呆れるアズールに被虐嗜好者を疑われたシェラは、食い気味でそれを否定する。

「やはりそうでしたか。でも、何故そのようなことを?」
ジェイドにとっては想像通りだったらしい。アズールとシェラのやり取りを完全に流しつつ、頭ごなしにシェラを叱るようなことはせずに、まずは冷静に理由を問うた。

「私の正当防衛を成立させる為です。押しかけてきた契約違反者はかなり怒り心頭で、そういう輩は怒りに任せて何をしでかすか分かりませんし、他のお客様の迷惑にもなります。かといって何も危害を加えられていないのに実力行使に出たら、こちらの立場が悪くなります」

シェラは正直にあの時の状況を話し始めた。
避けられるものをわざわざ食らうなんて、アズールに言われた通り被虐嗜好者もいいところだが、何もされていなければこちらから手出しは出来ない。
こちらが先に手を出したらまた別の問題が起こる。
こういった時に弱い立場になるのは店側なのは、不本意ではあるがどの世界も変わらない。

「もしあの時私が何もされていないのに力ずくで彼らのことをねじ伏せた場合、白羽の矢が立つのは支配人であるアズール先輩です」
アズールの名前を出すと、本人は驚いたように目を見張った。

従業員が問題を起こした場合、上長がその責任を負うことになる。
口下手なシェラは、アズールに迷惑をかけずに違反者達を黙らせる方法を考えた末、正当防衛に乗じて力でねじ伏せる方法を選んだ。
それが1番手っ取り早いと思ったし、事実話がまともに通じるような相手ではなかった。
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