第11章 7-3. 咬魚の誘惑 後編
「そういうことは自力で高得点をとってから言っていただけませんか。結果としてあなた方は赤点だったのでしょう?それはつまり、あなた方が馬鹿にしたコツコツ努力をして成績上位を修めているリドル寮長やアズール先輩の足元にも及ばないということになりますが、それは理解されていますか。それで文句を言っているようでは、話になりませんね。リドル寮長が気の毒です」
冷静にと心掛けたが、所々冷たい棘のある言い方だったと思う。
軽蔑するような視線で違反者ふたりを見据えると、彼らは顔を真っ赤にして怒りに震えていた。
当然だ。あえて気に障るような言い方をしたのだから。
我ながら性格が悪いと思いながら、シェラは彼らの次の動向を窺う。
「てめぇ……よく見たらオンボロ寮の監督生じゃねえか……魔法が使えないただの人間のくせに、生意気な口利きやがって……!」
怒りに震える違反者はシェラに詰め寄る。
魔法が使えないただの人間のくせに、なんて、もうシェラからしたら聞き飽きたような台詞を違反者は言ってきた。
「はい。私はオンボロ寮の監督生のシェラです。魔法が使えないただの人間でも、今回の中間テストは赤点無しでしたよ」
「馬鹿にしてんのか!俺は相手が女子だろうと手加減しねぇからな!!どっちの方が立場が上か、わかってんだろうな!!」
煽り、相手の神経を逆撫でするようなことをシェラが口にすると、これ以上ないくらいに逆上した違反者の拳が飛んできた。
しかしシェラは逃げも隠れも怯えもしない。
「はっ……!?おまっ、流石に女子に手を出すのは……っ!」
流石にまずいと思ったもうひとりの獣人属の違反者が制止をかけるが、それをもろともせずに彼は拳を振り切り、シェラの頬を殴打した。
その勢いでハットが吹っ飛んで床に落ちる。
モストロ・ラウンジのホールが大きくざわめいた。
視界の隅の方で、ことの一部始終を見ていた給仕の寮生が緊急事態だと言わんばかりに大慌てでVIPルームへ走って行ったのが見えた。
殴られた瞬間、シェラは僅かによろけたが、その場に倒れることなく彼を冷たい瞳で見据える。
「私を殴って、あなたの方が立場が上だと証明出来ましたか」
口の中で血の味が広がる。殴られた拍子に口の端を切ったらしい。
シェラは舌で血を舐めて拭う。