第11章 7-3. 咬魚の誘惑 後編
大方、この違反者達は最初から踏み倒すつもりでいたのだろう。
不当な契約かもと、少しでも情けをかけようとしたのが馬鹿馬鹿しく思えてきた。
「契約される前に契約書はちゃんと読まれましたか。きちんと金額が明記されていますが」
淡々と繰り出されるシェラの正論に、違反者達の顔が憎々しげに歪む。
「アズール先輩の虎の巻を頼った生徒が続出した秋学期の期末テストでは、全教科平均点が90点というありえない実績がありますが。……リドル寮長に首をはねられるというと、赤点ですよね。そもそもきちんと勉強されたんですか。対策ノートをもらっても勉強しなかったら意味がありませんよ。勉強が苦手ならリドル寮長に素直にそう申し出たらいかがですか。きっと丁寧に教えてくれますよ」
シェラは諭すように違反者に言う。
今回はたまたま魔が差してしまっただけ、というのは難しそうだが、なんとか更生の余地がないか模索する。
リドル本人はとても真面目で優秀なのに、その下の寮生がこれではリドルが気の毒だ。
「うるせぇな!ローズハートみたいにコツコツ勉強なんて、そんな地味なことやってられっか!」
「そんなの、要領の悪いヤツらのすることだろう!」
「どうせアズールのヤツも、教師達に胡麻を擂ってテストの問題聞き出して成績作ってるんだろ」
「あのインチキ野郎ならそれくらいやりそうだよなァ!?」
(何を言ってるんだろう)
彼らの言い分で、更生どころか情状酌量の余地すら無いことを察した。
段々話をすることさえ馬鹿らしくなってきた。
勉強はしたくない、楽して良い点とりたい、言っていることがめちゃくちゃで話にならない。
彼らは自分達を棚に上げてリドルやアズールのことを悪く言っているが、どの口が言えたことだろう。
リドルもアズールも努力の秀才であることをシェラは知っている。
彼らは幼い頃から今日まで必死に勉強をしてきたから優秀であるのに、それを否定し侮辱するのは許し難い。
それに、シェラにも幼い頃から稽古を繰り返して護身術を身につけてきた過去がある。
地道に努力を積み重ねることを否定されるのは、リドルやアズールだけでなく、間接的にシェラのことも侮辱していることになる。
無意識に、シェラの表情が険しくなる。
ふつふつと湧いてくる怒りを抑え、努めて冷静に、シェラは言った。