第11章 7-3. 咬魚の誘惑 後編
腰低く丁重にルカは彼らを出口へ促す。
特にアズールからは、ルカが言ったようなことは指示されていない。
とても丁寧かつ遠回しであるがルカが言っているのは、要は『煩いから帰れ』だ。
「話にならねぇ坊ちゃんだなぁ、オイ!ここは来店客を追い返すのか!?あぁ!?」
ルカの慇懃無礼な態度が違反者の癪に障っただろう。
逆上した違反者は思い切りルカを突き飛ばした。
突き飛ばされたルカは為す術なく勢いよく床に倒れる。
(投げ技の前にまずは体幹を鍛える必要がありそうだな)
ルカの体術の成績が振るわない理由がなんとなく分かった。
スポーツでも格闘術でも、全ての基礎となるのは体幹。
突き飛ばされて為す術なく床に転がってるようでは、投げ技を習得出来るのはもっと先になりそうだ。
そしてこういう暴漢相手には、警戒するのは意識だけではなく、身体も有事に備えておく必要がある。
(でも、ルカは私を庇ってくれたんだよね)
「従業員に暴力を振るうのはおやめください」
床に倒れたルカを、今度はシェラが庇うようにして一歩前に出ると、粗暴な契約違反者の前に立ちはだかる。
自分の要望が通らないからといって手が出るのは幼稚園児までにしておいて欲しい。
いや、幼稚園児の方がまだ賢く聞き分けがある。
「他のお客様のご迷惑になります。彼が言ったように、本日はお引き取り願えますか」
足元のルカはシェラを見上げて青ざめた顔をしている。
シェラはルカにジェイドとフロイドを呼んでくるよう視線で合図する。
暴力に訴える輩に対して、こちらは店員という立場で下手に手出しは出来ない。
シェラひとりでは手に余る可能性もある。
躍り出てきたのがルカよりも更に小柄でひょろひょろな1年生。
契約違反者は下衆な笑みを浮かべた。
「なんだァ?さらに弱そうな奴が出てきたじゃねぇか!!」
「お前もあいつと同じ目に遭わせてやろうか!?」
完全にシェラのことを見下し、馬鹿にしきったような目でシェラをジロジロと見る違反者達。
シェラは厭な視線を受けつつも、それを全く意に介した様子なく違反者達と対峙する。
「やれるものならどうぞ」
淡々と言いながら、シェラは水面下でじわじわと足を肩幅くらいまで開き下腹部に力を入れる。
「はァ……っ!?舐めんじゃねーぞチビが!!」