第10章 7-2. 咬魚の誘惑 中編
「あなたの身体のどこにダイエットが必要な要素があるんです?それ以上痩せてどうするつもりですか。ダイエットは不要です」
元々身体が横に大きかったアズールからすると、既に十分細身なシェラがダイエットを検討しているのは納得出来ないらしい。
最終的にダイエットは不要だと結論を出され、シェラは内心苦笑する。
「いえ、ダイエットではありません……」
この話は終わりだと言わんばかりに眉を釣りあげ鼻を鳴らすアズールへ、シェラは控えめに切り出す。
勝手にダイエットだと思われ、機嫌が悪くなられるのは不本意だ。
「?では何故食事制限などを考えているんです?」
ダイエットではないと分かったアズールは、それまでの不機嫌な態度から一転、きちんとシェラの話に耳を傾けようとする。
「ヴィル先輩がVDC本番までメンバーに食事制限を課してるので、私も同じようにしようと」
「シェラさんは出場されないのに、他のメンバーと同じにする必要はないのでは?」
確かにアズールの言っていることは至極真っ当で、誰もがそう言うだろう。
しかし自身にも食事制限を課すことは、シェラなりにVDC出場メンバーのことを考えて決めたことだった。
「私より食べ盛りのみんなが我慢しているのに、私だけ普段通り好きなように食事するのは気が引けます。匂いでバレてメンバーにストレスを与えるのも好ましくありません」
寝る前に、『腹減ったー!』と吠えるエースとデュースを思い出す。
日頃からボリュームのある食事や、トレイの作った絶品スイーツをおやつに食べている彼らからしたら、VDCまでの食生活は苦痛でしかないだろう。
スカラビアのふたりも、あからさまに態度に出したりはしないが、やはり物足りなさそうにしている。
特にカリムは、合宿という他寮のメンバーが多く集まることを喜び、ジャミルお手製の熱砂の国のお菓子を囲み宴のように振る舞うことを楽しみにしていたから、内心かなり落胆しているだろう。
「だってぇ。スカラビアの合宿んときもそーだったけど、小エビちゃんこう言い出したら意地でも曲げないから、アズール何言っても無駄だよぉ」
やたらシェラのことを頑固っぽく言うが、実際そうだから何も言えずシェラは口を噤む。
シェラとフロイドの言い分に納得したアズールは、やれやれと溜息をついている。