第10章 7-2. 咬魚の誘惑 中編
「はい。フロイド先輩が作る賄いはいつもとっても美味しいです」
シェラははっきりと言い切ると、フロイドは安心したようで大きく息を吐きながらシェラの肩に頭をぐりぐりと押しつけてきた。
「もー……、そうならそうと早く言ってよぉ。不味かったかと思ったじゃん」
「すみません。VDCが終わったらいっぱい食べますね」
なかなかお目にかかることのないこのフロイドの姿がシェラにとっては微笑ましく、また愛おしかった。
肩に乗るフロイドの頭をぽんぽんと撫でると、シェラはこっそり表情を柔らかくする。
「んーじゃあさぁ、VDCが終わるまでは何なら食べていいの?寮に帰ってもベタちゃん先輩のことだからこんな時間に食べるなーって言いそうだし。それじゃ小エビちゃんお腹空いて寝れなくなっちゃうじゃん」
顔を上げたフロイドは、ヴィルに許可されているものをシェラに訊ねた。
どうしてもシェラには賄いを食べてもらいたいようだ。
「サラダと、あとは高タンパクで低カロリーなメニューなら良いそうです」
それに加えて、ナッツ類やドライフルーツの類は食べすぎなければ良いらしいとシェラは伝える。
「ふーん、高タンパクで低カロリーねぇ……」
それを聞いたフロイドは、腕を組んで考え込むような仕草を見せる。
普段そんなことを考えて賄いを作っていないからか、どうやらピンとこないらしい。
すると、ちょうどそこへアズールが通りかかった。
アズールに気づいたフロイドは手を振りながら大きな声で呼ぶ。
「あ!ねーねーアズールぅ!高タンパクで低カロリーな食材教えてぇ!」
「なんです、急に」
フロイドに呼ばれたアズールは、渋い表情をしながらこちらへやって来た。
突拍子もない質問だがきちんと答えようとしてくれるあたり、口は悪いがアズールも律儀である。
「小エビちゃんがこれから1ヶ月くらいそれしか食べないんだってぇ」
「は……?シェラさん、あなたまさかダイエットするおつもりですか?」
ことの経緯を全て省略したフロイドの説明に、アズールの表情が歪む。
確かにフロイドの言い方だと、シェラがダイエットを検討しているようにしか聞こえない。
しかもアズールもアズールで、賄いに注文をつけるなということではなく、シェラがダイエットをすることに難色を示している。