第10章 7-2. 咬魚の誘惑 中編
そう言うと、ルカはぺこりと頭を下げて他の寮生がいる席へ向かった。
フロイドがどれだけシェラのことを気に入っているか、ルカは知っている。
それにシェラも、フロイドのことを憎からず思っているとルカは気づいていた。
だからルカは空気を読んで誘いを断ることを選んだ。
フロイドは持ってきた賄いをシェラの前に並べた。
モストロ・ラウンジの賄いは、メニューによるが大半は大皿に用意して各自食べたい分を取り分けて持っていくようになっている。
勤務後でお腹を空かせた寮生達がぞろぞろと集まり、各々自分の分を小皿に取って持っていった。
並んだ料理に、シェラは『あ……』という声を洩らす。
今日もイカやエビ、ホタテなどシーフードたっぷりのメニューだった。
シーフードサラダ、珊瑚の海風スープ、メインはシーフードペペロンチーノ。
(鷹の爪……それにガーリック……)
「小エビちゃん、お腹空いてる?今日もいっぱい食べてねぇ!」
キュートという言葉がぴったりな笑顔を浮かべたフロイドがシェラの隣に座った。
うきうきとした様子で自分の分とシェラの分のペペロンチーノを小皿に盛る。
「はい……」
VDCメンバーの強化合宿初日にヴィルに忠告されたことを思い出したシェラは、小皿へ多めにサラダを取る。
シェラはしゃくしゃくとレタスを咀嚼する。
塩とオリーブオイルにレモンというシンプルな味付けであるが、毎回微妙に調味料の塩梅が違う。
今日はそこそこ忙しかったからか、疲労回復に良いクエン酸を含んだレモンの風味が強い気がした。
フロイドがそこまで考えているのかどうかは分からない――大方気分だろうが、それでもこういった細かな気遣いがあるのは素直にすごいと思う。
「今日はね、ラッコちゃんの故郷の熱砂の国から香辛料が入ってきたからペペロンチーノにしたんだぁ!」
嬉しそうに話しながらフロイドは小皿に取ったペペロンチーノをシェラに渡してきた。
シェラが思い出したヴィルの言いつけ。
VDC本番までは単糖類、小糖類、香辛料を多く使った食事は禁止。
選抜メンバーではないシェラとグリムは強制ではないが、寝食を共にしている食べ盛りのメンバーが断腸の思いで我慢しているのに、自分だけ好きなように食事するのも彼らに悪い。