第2章 1. 図書館の攻防
誰か助けてくれそうな人はいないかと周りを見渡しても、みな目を逸らしてそそくさとその場から立ち去ってゆく。
きっと今頃、フロイドに絡まれて可哀想とか思っているだろう。
周囲に助けは当てにならないと考えたシェラは、どうにかしてフロイドから解放してもらうと策を巡らせていると、足音がひとつこちらへ近づいてきていることに気づいた。
そしてその足音はすぐ近くで止まった。
「お楽しみのところ、失礼します」
声をかけられシェラが振り返ると、すらりと背の高い男がフロイドとよく似た顔に涼しげな笑顔を浮かべて立っていた。
「あっ、ジェイドー」
現れたのは、フロイドとは双子の兄弟のジェイド。
このタイミングでの登場はシェラにとって救世主という他ない。助かった、とこっそり胸を撫で下ろした。
「フロイド。探しましたよ。おや、シェラさんもご一緒でしたか」
「こ、こんにちは、ジェイド先輩」
ジェイドに挨拶をしながらシェラはフロイドに掴まれたままの手を引く。が、離してくれない。シェラの表情が強ばる。
その様子を見たジェイドは笑顔のまま困ったように眉を下げると、口を開いた。
「仲睦まじいところへ無粋であることを承知ですが……」
(あなたの目は飾りですか)
この表情を見て仲睦まじいだなんて一体どこを見ているんだ、とシェラは内心ジェイドに毒づく。
視線で抗議をしてみたが、気づいていないのか否か見事に無視される。
「フロイド。モストロ・ラウンジの開店作業をサボるつもりですか?アズールに怒られますよ」
どうやらジェイドはモストロ・ラウンジの開店作業を行うためにフロイドを連れ戻しに来たようだ。
ならば早く連れて行って欲しい。このままだと耳に齧りつかれるのも時間の問題だ。
「えー。せっかく小エビちゃんと一緒に楽しいことしようとしてたのにぃ」
(私は全然楽しくありません)
とんでもなく誤解されそうなフロイドの台詞に頬を引き攣らせたシェラとは対照的に、ジェイドは笑顔を崩さない。それどころか意味深長に笑顔を深くする。
〝楽しいこと〟をどういう意味で捉えたのか確認しようとは全く思わないが、もし変な想像をしているのならやめていただきたい。