第2章 1. 図書館の攻防
フロイドの肌は水分をたっぷり含んだ弾力のある質感ですべすべとしていて、シェラは一瞬女子の頬に触れたのかと思ってしまった。
女子である自分の肌の方が乾燥しているような気がして、シェラは何とも言えない気分になる。
しばらく頬をぷにぷにつついていても起きる気配の無いフロイド。
図書館の椅子と机でここまで熟睡出来るのは逆にすごい。
流石にこれ以上つつくといい加減起こしてしまいそうだと思ったシェラが手を引こうとした時。
「ひっ……!」
寝ていたはずのフロイドに思い切り手首を掴まれた。
シェラの表情が一瞬にして凍りつく。
手を引っ込めようとしてもフロイドに力で勝てるはずもなく、びくともしない。
そのまま手を引かれて、ついさっき綺麗だと思った顔が寝起きとは思えないような笑顔で鼻と鼻がぶつかりそうな距離まで近づく。
「小エビちゃん、オレの髪を引っ張った上につつき回すなんて勇気あるねぇ。……そんなにオレにギュッてされたいの?」
にこにこと笑いながらそう言うフロイド。
笑っているはずなのに目が笑っていないのは気のせいであってほしい。
「いつから起きてたんですか……?」
出来るだけフロイドから顔を引き離しながら、シェラは表情を歪める。
手は依然として掴まれたまま。逃げようにも逃げられない。
「最初から起きてたよぉ。わざわざオレがちゃんと寝てるか確認してさぁ、小エビちゃんは悪い子だねぇ」
「つ、つい出来心で、ごめんなさい」
「うんうん。出来心ならしょうがないよねぇ。だからさぁ、オレのすることも、出来心ってことにしてくれるよね?」
「なにするつもりですか……」
一から十まで自業自得だ。
拒否権なんて無いと諦めたシェラは、なるべく穏便にことを終わらせようとフロイドの要求を訊く。
「うーん、ギュッてするのもいいけどぉ……」
含みのある甘い声。
座ったまま迫ってくるフロイドの長い脚が、シェラの膝を割った。
シェラのことを下から上に舐めるように見た後、にやりと唇の端を上げた。
「さっきの耳、試したいなぁ……?すっごく楽しそうだと思わね?小エビちゃん?」
「み、耳は勘弁してください」
本を取った時のことを覚えていたらしい。
フロイドに悪戯なんてするもんじゃないとシェラは後悔した。