第2章 1. 図書館の攻防
しばらく集中して古代魔法の文献を読んでいたのだが、知らない単語や魔法の専門用語が多く、術式の類いもさっぱりで読み進めるのも一苦労。やはりシェラでは理解出来ても半分が限界だった。
本を閉じたシェラが、大きく息をつき身体を伸ばすと平らな胸が上下した。
しばらく静かだった隣を見ると、フロイドが机に伏して昼寝をしていた。
そっと顔を近づけて耳を澄ますと、気持ちよさそうな寝息が聞こえてきた。
(珍しく無防備だ……)
何かと物騒なフロイドだが、眠っているとそうでもない。
シェラは頬杖をつき、眠るフロイドの顔をまじまじと見つめる。
くもりのない白い肌と男性的でシャープな顎。鼻から唇にかけての線は彫刻みたいだ。
改めて見ると、フロイドの顔はやはり整っていて綺麗だと思う。
その分怒った時の顔は怖いなんて生ぬるいものではないが。
(顔が良いなぁ……)
美術品を眺めている気分だったシェラに、ふと、ある出来心が芽生えた。
にやりと口角を上げる。
(今なら悪戯してもバレないかも)
人の耳にちょっかいを出てきた仕返しだ、とシェラは悪い笑顔を浮かべた。
もう一度フロイドに顔を近づけて寝ていることを確認すると、規則正しい寝息が聞こえてきた。
顔に落書きをするとか、ばれたら本気で絞め上げられそうな悪戯は選択肢から除外し、さて何をしようかとシェラは悪巧みにふける。
しかしいざ悪戯をと思っても案外何も浮かばない。
どうしようかと考えながらフロイドを見ると、彼の耳についている耳飾りが目に入った。
(綺麗なピアス……)
石にしては薄い、三連になっている菱形の飾りは、青水晶のような透明感のある澄んだ薄青。
確かジェイドも同じ耳飾りをつけていた気がする。であればきっと大切なものであるから触らない方がよさそうだ。
代わりにフロイドの髪の黒い部分に触れようと、シェラは左手の革グローブを外した。
ひと束だけ黒く長さが違う。起こさない程度に軽く引っ張ってみたがエクステなどではなさそうだ。
少し緑がかった青い髪に触れると、思いのほか柔らかく、さらさらとシェラの指の間を流れていった。
きちんと手入れが行き届いた綺麗な髪をしている。
普段だったら絶対に出来ないことをしようと、次にシェラはフロイドの頬をそっと指でつついてみた。