第9章 7-1. 咬魚の誘惑 前編
賄いを食べるのに使用した食器類はその日のうちに片付けるのがモストロ・ラウンジでのルールだった。
シェラも他の寮生と同じように自分が使った食器を洗おうとしたのだが、ジェイドとフロイドがそれを制した。
「ねーねージェイドぉ、もーすぐ片付け終わるから小エビちゃん呼んできてー」
洗い終わった食器を拭いているフロイドは、先に片付けを終えたジェイドに声をかけた。
「わかりました」
この後フロイドがシェラをオンボロ寮へ送っていくことになっている。
22時前とはいえ、もう夜も遅い。
夜道を女子――シェラひとりで帰すわけにはいかない。
なるべく早く帰れるように、賄いの後片付けもそこそこに、先に帰り支度をさせている。
フロイドに頼まれたジェイドは、シェラの為に用意されているゲストルームへ向かった。
そろそろ着替えも終わっているだろうと思いながら、ジェイドはシェラのいるゲストルームの扉をノックした。
「シェラさん、失礼いたします。支度は終わりましたか?」
いきなり部屋に入るのは失礼だ。
ジェイドは声をかけながら入室の許可をとろうとしたが、部屋にいるはずのシェラからは返事がない。
「シェラさん?」
もう一度ノックをして扉越しに声をかけるが、やはり返事がない。
(……?)
なにかあったのかと不安に思いながら、ジェイドはドアノブに手をかける。
鍵は閉まっていない。
「失礼いたします」
着替え中であれば何かしらの反応が返ってくるだろうと思いつつ、扉を開けたらシェラが下着姿でないことを祈る。
「おやおや。これは……」
ゲストルームに一歩足を踏み入れたジェイドは困ったように眉を下げながら、顎に手を当てて微笑んだ。
部屋に入ったジェイドが目にしたのは、着替えを済ませベッドに横になって眠っているシェラ。
「待ちくたびれちゃいましたか」
疲れと満腹が睡眠導入剤になったのだろう。
メイクをしたまま眠るのは肌に良くないが、睡魔が勝ったらしい。
ジェイドは微笑ましげに表情を柔らかくすると、シェラのそばに歩み寄り、片膝をついてその顔を見つめる。
「ふふっ。お疲れ様でした」
あまりにシェラが気持ちよさそうに眠るものだから、ジェイドはすぐに起こすのは惜しいと思った。