第9章 7-1. 咬魚の誘惑 前編
アズールの言葉を見計らったかのようなタイミングで、香ばしいいい香りがシェラの鼻をくすぐった。
食欲をそそられる匂いにつられるようにしてシェラは厨房の方へ視線をやると、ひょっこりと顔を出したフロイドと目が合った。
「小エビちゃーん!!賄い出来たよぉ!今持ってくからもう少し待っててねぇー!」
弾んだ声でシェラに声をかけるフロイド。
アズールだけでなくフロイドも上機嫌だ。シェラの為に美味しい賄いを作るとフロイドが張り切っていたと、ジェイドが言っていた。
フロイドは一体何を作ってくれたのだろう。
先程から美味しそうな匂いが厨房から漂ってきていて、シェラは楽しい想像を膨らませる。
オクタヴィネルの彼らとスカラビアの合宿に乗り込んだ時に食べた、フロイドが作った魚介たっぷりスープは絶品だった。
気分屋で適当なフロイドが料理をするイメージが全く無かったから、あの時は素直に感心した。
ただ、アズールからのタレコミいわく、気分屋なだけに魔法や飛行術のみならず料理までもがその日の調子で出来が左右され、気分ではない時は味がとんでもないことになるらしい。
「小エビちゃんお待たせー!」
腹の虫を宥めつつ賄いが出来上がるのを待っていたシェラの元へ、フロイドはわくわくした様子で料理を運んできた。
テーブルに並んだメニューに、シェラは目を見張る。
ベビーリーフとパプリカの上に贅沢にサーモンが乗ったサラダ。
凝縮された甲殻類の旨みが香るビスクスープ。
大きなフライパンに彩りよく盛られたシーフードたっぷりのパエリア。
海の幸をこれでもかとふんだんに使ったメニューが目の前に並び、思わずシェラの喉が鳴る。
「すっごく美味しそうです……」
シェラがお世辞抜きの感想をこぼすと、フロイドはえっへん、と胸を張る。
「でしょー?小エビちゃんが美味しい賄い楽しみにしてるって言ってくれたから、オレ頑張っちゃった!」
フロイドは、そう誇らしげに言いながら、シェラの左隣へ座った。
早く食べて欲しいと言わんばかりにフロイドは小皿にシェラの分を取り分けると、無邪気な笑顔と共に差し出した。
「ほらほら、早く食べてみてよ!」
「いただきます」
シェラはフォークを手に取ると、まずはサラダからいただくことにした。