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泡沫は海に還す【twst】

第9章 7-1. 咬魚の誘惑 前編


さりげなくスカラビアへ勧誘してくるジャミルを躱すように、シェラは再び肩を竦めておどけた口調で返す。

「なんだなんだ!?なんの話をしてるんだ!?」
傍から見たら、ひそひそと内緒話でもしているかのように見える。
カリムにもそう見えたようで、オレも話に加えてほしいと言わんばかりに、ひょこっと顔を出して声をかけてきた。

「今日の給仕のお礼に今度の宴に来ないかと誘っていた」
「はい。ジャミル先輩に誘っていただきました」
息を吐くように嘘をつくジャミル。
しかもその嘘がまったく嘘に聞こえないからすごい。
だが、馬鹿正直に毒と銀食器の話を主にする従者などいないだろう。
シェラは内心苦笑しつつ、ジャミルに話を合わせる。
シェラもシェラで息を吐くように嘘をついた。

「おお!ジャミルが誰かを誘うなんて珍しいな!いいぜ!次の宴、シェラも来いよ!」
ジャミルの嘘を嘘とはこれっぽっちも思っていないカリムは、屈託のない眩しい笑顔で言った。

「だったら今度の宴は熱砂の国の衣裳を着ないか?ちょうどシェラに似合いそうな色の絹の反物があったはずだから、それを仕立ててやるよ!」
「いえ、そこまでしていただくのは……」
カリムのことだから、きっと刺繍や装飾がたっぷりと施された、見たことないくらい華美なものを用意しそうだ。衣裳の華やかさに顔が負ける。
それ以上に自分用に衣裳を仕立ててもらうのは気が引ける。しかも絹。
とんでもない金額になりそうなことは想像に容易い。

「遠慮するなって!ホリデー期間にスカラビアに来てた時はうちの寮服を着てたけど、シェラも女の子だし、煌びやかで華やかな衣裳の方がいいだろ?」
財力がある分、遠慮するなという言葉の説得力がすごい。
カリムは良かれと思って言ってくれているのが分かるから、断るのは心苦しい気もする。
シェラは助け舟を出してもらおうと、ちらりと横目でジャミルを見る。

「カリム、そういうことを大きい声で言うな」

(そっちじゃない……)

ジャミルが釘を刺したのは、〝シェラは女の子〟というのを大きな声で言うな、のみ。
幸か不幸か、凹凸の少ない女子らしからぬ体型をしているシェラ。
だからシェラが女子であることに気づいていない生徒もいるが、正直今更だ。
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