第9章 7-1. 咬魚の誘惑 前編
涼し気な表情で誤解されることこの上ない言い回しでフロイドに釘を刺すジェイド。
そんなジェイドにシェラは間髪入れずに文句を言う。
濃厚な接触とはなんだ。なんだか別の意味に聞こえてるからやめてほしい。
ジェイドがそんなことを言うから、エースとデュースが笑いを懸命に堪えてすごい表情になっている。
「シェラ、今度の何でもない日のパーティーまでにキミ専用のハーツラビュル寮服を用意しよう」
寮服は、その寮のアイデンティティを表す最たるもの。
シェラがオクタヴィネルの寮服を着ていることに対抗心を燃やしたのか、リドルはそう提案する。
そしてその提案に、シェラよりも先に反応したのはファッション感度の高いケイトだ。
「お!いいねぇー!せっかくだしシェラちゃんスカート風にしちゃう!?脚細いからボリュームのあるキュロットにブーツとか絶対似合うと思うんだよねー!」
当事者のシェラよりも楽しそうにしている。
早速マジカメで〝#キュロット〟と検索して、イメージの写真を見せてくれた。
「へぇ、ハナダイくんセンスいーじゃん!それ、小エビちゃんに似合いそうだねぇー!」
「でしょ!で、ブーツはこんな感じとかいいんじゃない?」
フロイドの興味の矛先がリドルからシェラのハーツラビュル寮服のイメージ写真に移った。
機転を効かせてくれたのか否か、ケイトが話に加わったことによって一触即発の空気が緩和された。
シェラがほっと胸を撫で下ろしていると、再び来客を知らせるベルが鳴った。
扉の方へ視線をやると、太陽のように眩しい笑顔と目が合った。
彼は天真爛漫な声でシェラを呼んだ。
「シェラー!マジカメの投稿見たぞー!!今日からモストロ・ラウンジでバイトを始めるんだってな!だから会いに来たぞ!あっはっは!」
「すみません、2名です」
今度の来店客は、清々しいくらい豪快に笑うカリムと、なんだか胃が痛そうなジャミルだった。
カリムの言うシェラのマジカメの投稿というのは、出勤前に投稿したもので、オクタヴィネルの3人からもらった靴を履いた足元の写真のこと。
キャプションに『今日からモストロ・ラウンジでアルバイトをします』という文章を添えた。
スカラビアのふたりも、シェラに会いにモストロ・ラウンジへ来てくれた。