第9章 7-1. 咬魚の誘惑 前編
「うん。シェラ、今日のメイクは式典の時とは違って華やかで女性らしいね。どっちも綺麗だけれど、ボクは今のメイクの方が好きだな」
僅かにしゅんとした表情になったシェラのことを、リドルは上品に微笑みながら褒めた。
「ああ、そうだな。シェラはメイクの仕方で大きく印象が変わるから是非ハーツラビュル仕様のメイクも見てみたいところだ」
リドルの言葉に、隣のトレイも頷きながら同調する。
「ハーツラビュル仕様のメイクだけじゃなくて、私服とかに合わせて色んなメイクが見たいなぁ。あっ、メイクの写真載せてる有名なマジカメグラマーがいるから今度一緒に見よー!」
軽い口調でケイトがスマホ片手にシェラに笑いかける。
「ありがとうございます」
先輩の言葉に、シェラは粛々と頭を下げる。
シェラが顔を上げたところへ、デュースが歩み寄り、勢いよく今度はデュースが頭を下げた。
「シェラ、その、スマンかった!普段の見慣れてるシェラじゃなかったから、その……あの……びっくりして……、えーっと……」
ゆっくりと顔を上げながら、しどろもどろに話すデュース。やっぱりまだ顔が赤い。
そんなデュースを、隣にいたエースが肘で小突く。
「あー、もう!デュース、はっきり言えよなー、可愛かった、って!」
「エース!」
エースの方はデュースよりも幾分思い切りがいい。
ふたりの下で、グリムがやれやれと呆れて首を横に振っている。
「シェラ、ほんっとメイクで大変身するよなー。今日のメイクも似合ってていーじゃん。……可愛いんじゃね」
「ああ、そうだな。……シェラ、……か、かわ……可愛い」
「最初から素直にそう言えば良いんだゾ」
照れて目を逸らしながらぽりぽりと頬を掻くエース。
デュースの方は、まっすぐとシェラの目を見ながらも、やはり恥ずかしいのか肝心なところで舌をもつれさせる。
不思議なことに今この状況だと、グリムが1番落ち着いている。
そんな様子が面白くて、シェラは思わず笑ってしまった。
「ありがとう。嬉しいよ。……6名様ですね。ご案内いたします」
にいっと口角を上げつつ、恭しい仕草を添えて席を示す。
いつまでも入口で立ち話なんて不躾だ。
ハーツラビュルの彼らとグリムを店内でも1番広いボックス席へ案内する。