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泡沫は海に還す【twst】

第9章 7-1. 咬魚の誘惑 前編


「オンボロ寮の監督生で1年のシェラ・リンジーと申します。今日からアルバイトとして働かせていただきます。皆さんご指導よろしくお願いします」
こういう時に愛想良く笑えたら良いのにな、と思いながら、いつもと変わらない淡々とした口調で簡単に自己紹介をすると、シェラは頭を下げた。

頭上から品の良い拍手がした。
シェラは顔を上げると、クラスメイトでありシェラの頭にマジフトのディスクをぶつけてしまった彼と目が合った。
なんとなく安堵した表情を浮かべている。

集まった寮生達をぐるりと見渡すと、多少面識のある1年が数人と、あとは全く面識のない学年さえも分からない先輩達が数人。
みな、すらりと背が高く、タキシードのような寮服も相まって大人びて見える。
人の良い笑顔を見せてはいるが、どことなく食えない雰囲気があるのは、オクタヴィネル生の特徴だろう。
つくづく寮長であるアズールに似ているとシェラは思う。

「シェラさんには給仕メインでシフトに入っていただきます。しばらくの間ジェイドに新人トレーナーとして教育をお願いしますが、皆さんもシェラさんがお困りでしたら助けて差し上げてください」
「かしこまりました」
アズールの言葉に、寮生達は恭しく了解した。
左隣にいたジェイドがシェラの肩に触れ、にこりと笑いかける。

「シェラさん、頑張りましょうね」
「はい。よろしくお願いします」
シェラは表情を変えずにジェイドを見上げる。
すると、右隣のフロイドもすかさずシェラの肩に触れ、ぐっと顔を近づける。

「あーあ。オレも小エビちゃんのトレーナーやりたかったのになぁ。しょーがないからキッチンから小エビちゃんの仕事ぶりを見てるねぇ」
「ちゃんと仕事しないと、またアズール先輩に怒られますよ」
残念そうに頬を膨らませるフロイドへ、シェラは冷静に言う。
するとアズールが、聞き捨てならないと言わんばかりに間髪入れずに口を挟んだ。

「僕でなくても怒ります。というか、また、とはなんです」
「アズール先輩はいつもフロイド先輩に対して怒ってるイメージがありますが」
「失敬な。僕はそんなに怒りっぽくありませんよ」
4人の一部始終を見ていた寮生達がざわつく。
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