第8章 6-2. 咬魚の束縛 後編
「はは……っ。ほんと、相変わらず物騒ですね」
慈愛に満ちた優しい笑顔は初めて見せたのに、言っていることは相も変わらず物騒で、シェラは笑ってしまった。
それが、フロイドなのだ。
だからシェラも、今にもこぼれ落ちそうになっている涙を押しとどめようとして笑顔を見せた。
しかしそうしたシェラの気持ちとは裏腹に、鼻の奥がつんとする。
今にも溢れそうな涙をこぼすまいと、シェラは目頭に力を入れる。
「あは。でもオレが絞める前に小エビちゃんがやっちゃうかもね。だって小エビちゃんつえーらしいし?それも元の世界で頑張って護身術を身につけたからでしょ?オレ強い雌好きだし、もっと元の世界の自分のこと褒めてあげてもいいんじゃねーの?」
飾りげのないフロイドの言葉が胸に響く。
さらに目が熱くなる。
胸が、ぎゅうっと縛られたように苦しくなる。
「フロイド先輩……、あなたは本当に……私の気持ちを汲むのが上手ですね」
やっとの思いで絞り出した声は、震えていた。
まっすぐフロイドを見上げるシェラの瞳から、大きなしずくが頬を伝い、こぼれ落ちた。
ぱた、と地面に落ちた水滴が滲むように広がる。
フロイドの言葉がシェラの心に温かく染みわたる。
「飛行術の日だって、あなたは私にとって1番嬉しい心遣いをみせてくれました」
弱気になって泣いている姿を見られたくない、というシェラの気持ちを汲んで、フロイドが黙って背中を貸してくれて、ひっそりとシェラの甘える場所を作ってくれた時のことを思い出す。
はらはらとこぼれ落ちる涙が、シェラの頬を濡らす。
シェラは泣き顔を隠すように、手の甲で涙を拭う。
しかし、一度決壊した感情は涙となって、もう、止まりそうになかった。
フロイドは泣いているシェラを見つめ、ゴールドとオリーブの瞳をすっと細め、ゆっくりとシェラへ手を伸ばす。
「あァ……、あの日はそういう気分だったけど……」
フロイドの大きな手がシェラの頬を包み込むと、そっと涙を拭った。
顔を上げたシェラへ、ふわりと微笑むと、涙をすくった手がシェラの頭に添えられる。
「今日だったらこうするかなぁ」
そう言ってフロイドは、シェラの頭を自分の胸に押しつけるようにして、優しく抱きよせた。