第8章 6-2. 咬魚の束縛 後編
「じゃ、行こっかぁ。はい、乗ってぇ」
「お願いします」
シェラは再びフロイドの背中に乗る。
今度は言われる前に、ぎゅっと抱きつくようにしっかりとフロイドの肩に腕をまわす。
(お優しいのですね……)
落ちる落ちないではなく、シェラ自身がそうしたかったから。
薄いシャツとベスト越しに感じる、フロイドの体温が心地よかった。
同じ方向を向いているシェラからはフロイドの表情は分からない。
シェラが自らぎゅっと抱きつくように腕をまわしたことに気づいたフロイドは、こっそりと頬を染めながら嬉しそうに表情を緩めていた。
他愛ない会話をしつつ、ふたりはオンボロ寮へ向かう。
フロイドは意識してゆっくり歩いていた。
シェラもそれには気づいていた。
除雪されてはいるものの、所々雪が残っている。ここでフロイドが滑って転んでは本末転倒だ。
おんぶでも人目を引くのは必至だった。
オンボロ寮への道中では、購買や鏡舎付近を通るのだが、みな何事かと背負われたシェラを見てくる。
ある生徒は気の毒そうな顔で、またある生徒は目をひんむいたような顔で、大多数の生徒はシェラがなにかやらかしたからフロイドにそうされていると勘違いをしていそうな顔をしていた。
唯一、どうしたのかと話しかけてきたのは、鏡舎付近で会ったカリムとジャミルだった。
シェラがフロイドの背中の上から事情を話すと、カリムがとても心配してくれて『困ったことがあったらすぐ連絡くれよ!オレとジャミルがすぐ行くからな!』と言ってくれた。
隣のジャミルがなにか言いたげにしていたが、シェラは彼の気持ちを汲んで、『ありがとうございます』とだけ返した。
植物園が見えたきた。
(もう着くな……)
ここを過ぎれば、オンボロ寮はもうすぐそこだった。
シェラを送り届けて、フロイドは帰る。
グリムはトレインに捕まっているらしく、帰りは遅くなるだろう。
今日はもう少しこのまま一緒にいたい。シェラはそう思った。
しかしそうとは言えず、シェラはただ、フロイドの肩にまわす腕にほんの少しだけ力をこめる。
そのタイミングでフロイドが、思い出したようにシェラに訊いた。
「小エビちゃん保健室で寝てる時ちょー魘されてたけど、なんか悪い夢でも見てたの?」