第8章 6-2. 咬魚の束縛 後編
◇ ◇ ◇
さくさくと雪を踏む音。吐いた息が白くなる。
暖かいのは学園内だけで、一歩外に出ると気温は真冬のそれ。
故郷ではあまり雪が降らなかったから、シェラにとって積もっている雪は何度見ても新鮮だった。
冬の陽は落ちるのが早い。
夕陽の橙と宵闇の藍のグラデーションが美しい空に、星が白く輝き始めていた。
白い吐息は、きん、と冷えた空気に溶けてゆく。
「小エビちゃん、寒くない?」
シェラをおぶって歩いても、息一つ乱さないフロイドが訊いた。
「……大丈夫です」
「ほんと?」
シェラの返事の妙な間を見逃さなかったフロイドが念押しで訊く。
正直にいえば、寒い。
脂肪が少ない上に雪に慣れないシェラの身体は、寒さに弱かった。
「……冬は寒いです」
しかし既に怪我で心配をかけている。
余計な心配をさせまいと、シェラは冬だから寒いのは当たり前だと返す。
「小エビちゃん、一旦降りてもらっていい?」
「?はい」
フロイドはそう言うと、シェラの足に負担がかからないようゆっくりとしゃがむ。
言われた通り、シェラは一旦フロイドの背中から降りる。
流石に休憩かな、とシェラが考えていると、フロイドは着ていた制服のジャケットを脱いで、ふわりとシェラの肩にかけた。
「はい。これで少しは寒くなくなるでしょ」
「え……」
シェラは驚いてフロイドを見上げる。
1月中旬。シェラの故郷では大寒と呼ばれる時期にさしかかろうとしている。
流石にシャツとベストだけでは薄着すぎて、フロイドが風邪をひいてしまいそうだ。
「オレは人魚だからこれくらいの寒さだったら全然へーき」
シェラがなにか言う前に、フロイドは笑顔で言った。
スカラビアで砂漠の果てまで吹っ飛ばされた時に、流氷が海面を覆うような寒い海出身だから、寒さには強いと言っていた。
『気にしないでぇ』とフロイドはシェラの頭を撫でた。
「そう、ですか……。ありがとうございます」
シェラのものよりもふた回りも大きい、フロイドのジャケットをしっかり羽織り直す。
シェラはきゅっと唇を引き結び、フロイドから目を逸らす。
顔が熱い。胸がぎゅっと締めつけられるような感覚に襲われる。
体温が一度ずつ上昇していくようだった。