第2章 1. 図書館の攻防
シェラは思わず肩を大きく震わせた。
席で寝ていると思っていたフロイドがいつの間にか音もなく後ろに立っていたこともだが、それ以上に耳元で囁くように声をかけられたことに驚いた。
「あはっ。またビクッてなってるー」
「い、いきなり耳元で囁かないでください……」
シェラはフロイドから目を逸らしながら1歩離れる。
耳が熱い。耳だけでなく顔も熱い気がした。
「あれ、そっち?小エビちゃんもしかして耳弱い?」
フロイドとしては後ろから驚かせたつもりだったのだろうか。
予想外の反応に面白がって、シェラの逸らした目を追うように顔を近づけてくる。
「弱くないです」
フロイドに弱点を晒すと、きっとろくなことが無い。
精一杯の抵抗を込めてシェラはフロイドを見つめ返す。
ここで目を逸らしたままだと、はいそうですと肯定しているようなものだ。
「へぇ、そうなんだ。じゃあもう1回試してみようかなぁ……?」
オリーブとゴールドの瞳が細められたと思うと、悪い笑みを浮かべたフロイドの唇が耳元に迫る。
「試さなくて大丈夫です……っ!」
耳に齧りついてきそうなフロイドの顔を手で抑えて制止する。
そんなことをされたらどんな声を上げてしまうか分からない。
それにこんな所を誰かに見られてしまったら、あらぬ疑いをかけられてしまう。
不本意だが傍から見たら人目を憚らずにいちゃつく男女も同然だ。
「それより、フロイド先輩席で寝てたんじゃないんですか?」
このまま耳が弱いのどうこうと押し問答を続けていたら、フロイドに隙をつかれてしまうと判断したシェラは話題を変えた。
「小エビちゃんが背伸びしてぷるぷる震えてたから助けてあげよーって思って!」
先程の悪魔のような笑みは見間違いだったと思ってしまいそうな、可愛らしい笑顔を見せながらフロイドは答えた。
「あ……、そうでしたね。すみません、お礼が先でした。本、ありがとうございます」
耳にちょっかいを出してくるから意識から飛んでいたが、フロイドはシェラの背では届かない高い所の本を取ってくれたのだ。
律儀なシェラは、お礼が後になったことに対して謝ると、本を渡してもらおうとフロイドを見上げた。
「小エビちゃんこんな難しそうな本読むの?」