第2章 1. 図書館の攻防
「なんかオレ眠くなってきちゃったぁ」
「お昼寝するなら寮に帰ったらいかがですか?」
「えーやだ。寮に帰ってもつまんねぇからオレここで昼寝するー」
(一体何しについて来たんですか)
図書館は寝る場所ではありません、というお説教が出かかったが、それをぐっと呑み込む。
機嫌が悪くなられると困るのはシェラの方。だからここは折れることにした。
騒がれるのは勘弁だが、昼寝となれば静かにしていてくれるだろう。
くぁ、と欠伸をしながら長い腕と背丈を大きく伸ばしているフロイドを席に置いて、シェラは今日読む本を探しに行った。
ナイトレイブンカレッジの図書館は、学校の図書室とはにわかに信じ難い程広く蔵書も遥かに多い。
呼び方が〝図書室〟ではなく〝図書館〟であることも頷ける。
魔法に関する本はもちろん、歴史書や図鑑、事典の類の図書館らしい本や最新の小説なども蔵書されていて、特に最新小説は学園長のクロウリーが貸出開始初日に借りに来たりするのだとか。
この世界のありとあらゆる情報がここには集まっている。
シェラはその中でも空間転移魔法や古代魔法の文献を探していた。
ナイトレイブンカレッジは優秀な魔法士の養成学校である。
そんな学園の長を務めるクロウリーのことだから、きっと知りうる全ての魔法は使えるだろう。
クロウリーも知らない、シェラが元の世界に帰る方法。
学園長を務めてウン十年と言っていたから今何歳なのかは不明だが、その手がかりがあるとしたら彼の知らない古い魔法にある気がした。
「あった」
参考になりそうな本を見つけて、シェラは取ろうと手を伸ばす。
(と……、届かない……)
背伸びをして平均身長を限界まで伸ばしても、爪先から指先までが震えるだけで届かない。
シェラが図書館に対して唯一不便に思うこと。
上の方に並ぶ本は魔法で取ることを前提にしているのか、本棚が異様に高い。
一応足場用の台はあるが、申し訳程度の高さしかない。
自力で取ることを諦めて台を探しに行こうとした時。
シェラに覆い被さる様に大きな影が現れた。背後から伸びた手がシェラの取ろうとしていた本をひょいと難なく取ったと思うと、耳元でぬるりとした甘い声で囁いてきた。
「ばぁ!これでいい?小エビちゃん」
「……っ!?」