第8章 6-2. 咬魚の束縛 後編
恥ずかしいじゃん、とフロイドは思ってもなさそうなことを口にしながら、ぐっと屈んで覗き込むようにしてシェラに顔を近づける。
「いえ、なんでもありません。ただ、すごいなって思っただけです」
見とれていました、なんて言えるわけもなく。
フロイドの顔が急に近づいて、シェラは気恥ずかしくなり逃げるようにして顔を背ける。
「そぉ?……オレのこと見直した?」
背けた顔を追うようにして、フロイドは更にシェラへ顔を近づけながら茶化すように訊く。
こうやって逃げても追いかけてくるときは、大体面白がっている。
「見直すもなにも、あなたが優秀だってこと、私は知ってます」
シェラは手でフロイドの顔を押さえながら言う。
これ以上顔を近づけられると、赤面してしまいそうだ。
「あは。小エビちゃんに褒められたぁ。嬉しいなぁ、ありがとう」
上機嫌に笑いながら、フロイドはシェラから顔を離した。
やっと追及することをやめてくれたか、とシェラは心の中で安堵した。
最近やけにフロイドの距離が近い。
「じゃあ、今度こそ帰ろっかぁ。小エビちゃん、オレの背中に乗って」
そう言いながらフロイドはしゃがんで、背中に乗るよう促す。
エースとデュースが見ている前で、フロイドにおぶわれるのは恥ずかしいが、この際仕方ない。
お姫様抱っこよりましだと自分に言い聞かせ、シェラはそっとフロイドの背中に乗り、肩に手を置く。
「……小エビちゃん、ちゃんと掴まってないと振り落とされるよぉ?」
なんだか聞いたことのある台詞だ。
地面めがけて真っ逆さまに飛ばれた2人乗りの飛行術の授業を思い出す。
「振り落とされるって、あなたまためちゃくちゃなことをしようとしているんですか」
「まあいーや、じゃー立つからねぇ」
シェラの問いかけには明確に答えず、フロイドは立ち上がった。
「う、わっ……!」
その拍子にシェラの身体がぐらつく。反射的にシェラはフロイドの首にしがみつくように腕を回した。
「だから言ったじゃん。ちゃんと掴まってろって」
「重心が高いから危ないって意味だったんですね……」
フロイドは振り向きながらシェラを見て口を尖らせた。
フロイドは背が高い分、その背におぶわれるシェラの重心も高くなる。重心が高くなると、不安定になるのだ。